学長メッセージ
知の総合力で未来を拓く
このたび第14代学長に就任し、埼玉大学の将来を担うことになりました。埼玉大学をますます発展させるよう全力を尽くしてまいります。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
埼玉大学は、1949年に新制国立大学として旧制浦和高等学校、埼玉師範学校及び埼玉青年師範学校を統合して創立されました。以来75年余が経過し、現在は教養・経済・教育・理・工の五学部と人文社会科学・教育学・理工学の三研究科を一つのキャンパスに擁する総合大学に発展してきています。

「All in One Campus」という本学の特長は、単なる地理的な集約を意味するものではありません。人文学・社会科学・自然科学という学問の三大体系を基礎から応用まで包含し、さらに次世代を育てる教育学部を備える本学は、専門分野を深く究める力――すなわち「専門知」を育むと同時に、それらを有機的に結び付ける土壌を自然体で備えています。分野を超えた日常的な対話と協働が、新たな視点を生み出し、より広い視野から社会を捉える力を育てています。
近年、AIやデータサイエンスの急速な進展は、研究の方法論や産業構造のみならず、人間の思考様式そのものに影響を及ぼし始めています。他方で、国際紛争の長期化や、自由・民主主義といった普遍的価値の揺らぎは、世界の秩序と連帯のあり方に深い問いを投げかけています。不確実性と分断が同時に進む現代において、断片的な知識の寄せ集めでは社会の本質を見通すことはできません。深い専門性と、それを統合する視座の双方が求められています。
本学が目指す「総合知」とは、専門知を徹底して深化させることを前提に、それらを分野横断的に結び付け、複雑な課題を構造的に理解し、持続可能な解決策を構想する知の力です。専門知と総合知の往還の中で、自ら問いを立て、他者と協働しながら未来を切り拓く人材を育成することが、本学の教育の柱です。
研究においては、自由で独創的な探究を何よりも尊重します。真に社会を変えるイノベーションは、短期的成果の積み重ねのみから生まれるものではなく、長期的視野に立った基礎研究の着実な蓄積の上にこそ芽生えます。本学は、基礎研究の深化を学術の礎と位置づけ、その上に応用研究を展開し、社会実装へとつなぐ体制を強化します。同時に、複雑化する社会課題に応えるため、文理融合型の分野横断的研究を積極的に推進します。異なる知が交差するところにこそ、新たな発想と実践的解決が生まれます。環境・エネルギー、地域産業の高度化、教育改革、福祉・共生社会の実現など、多様な課題に対し、基礎と応用、専門と融合の両面から戦略的に取り組み、その成果を社会へと還元してまいります。
本学が位置する埼玉県は、東日本交通網の結節点という地理的特長を背景に、広域物流の拠点として発展し、高度製造業を中心とする内陸型工業が集積する地域です。一方で、深谷ねぎや狭山茶に代表されるブランド農産物を育む都市近郊農業も展開され、工業と農業の双方を併せ持つ県でもあります。さらに、秩父をはじめとする豊かな自然や歴史・文化資源に恵まれ、多文化共生が進む地域社会という広がりも有しています。埼玉大学は、県内唯一の国立大学として、企業・自治体との連携や政策形成への参画を通じて地域の持続的発展を知的基盤から支えるとともに、国際共同研究や多文化共修の推進により、地域と世界を結ぶ拠点としての役割を果たしてまいります。
学生支援においては、学修支援、キャリア支援、メンタルヘルス支援を体系的に整備し、障がいのある学生や留学生を含む多様な学生が安心して学べる環境を充実させています。多様性・公平性・包摂性(DEI)は一過性の理念ではなく、世界共通の普遍的価値であり、持続可能な社会と学術共同体の基盤です。本学は、この価値を堅持し、互いの違いを尊重し合いながら、その多様性を創造の力へと転換できるキャンパスを築いてまいります。
大学運営においては、データに基づく意思決定を推進し、生成AIなどの新技術も適切に活用しながら、合理性と透明性を高めます。安定的な財源確保と持続可能な経営基盤の確立にも努め、将来世代に対する責任を果たしてまいります。
鎌倉時代の僧・明恵上人は、「阿留辺畿夜宇和(あるべきようわ)」という言葉を遺しています。その時、その場において「どのようにあるべきか」を自身に問いかけ、その答えに沿うように生きよという教えです。大学の使命を考える上でも深い示唆を与えてくれます。社会全体が大学の役割を問い直す今だからこそ、本質を見極め、守るべきものを守り、変えるべきものを変える姿勢が求められています。
埼玉大学のあるべき姿とは何か。知の総合力を結集し、教育と研究を両輪として、地域と世界を結び、次代を担う人材と未来の教育を支える教員を育成する大学であること。この使命を胸に、皆様とともに未来を拓いてまいります。今後ともご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
国立大学法人埼玉大学 学長
重原 孝臣
