2026/10/15
【経済学部】金融と財政の相互作用を数理モデルで読み解く
経済学部/二羽研究室
2026/10/15
経済学部/二羽研究室
近年、物価の上昇、いわゆるインフレが国民生活に与える影響がたびたび話題になっています。一般的には、中央銀行による金利の引上げなど「金融政策」がインフレ対策の中心だと考えられています。しかし、本学経済学部の二羽秀和准教授は、政府の支出や税制などの「財政政策」にも注目する必要があると指摘します。従来の常識を見直しながら、経済の仕組みを新しい視点で探る研究について話を聞きました。
数理モデルを用いて、日本の金融政策や財政政策について、どのような示唆が得られるのかを研究しています。その中で、学生時代から一貫して、「政府債務(国債など)が物価に、どのような影響を与えるのか」というテーマに取り組んできました。
最近、ポテトチップスやジュース、ファーストフードなど、身近なものの価格が上がっていると感じませんか。これこそがインフレと呼ばれる状態です。一般的には、インフレ対策を含め、物価の安定を担うのは中央銀行(日本では日本銀行)だというイメージが強いでしょう。実際にマクロ経済学の教科書でも、そのように説明されることが通常です。

しかし、このようなマクロ経済学の伝統的なモデルには見落とされている視点があるのではないか。これが私の問題意識です。
そして、見落とされている視点とは、「政府といえども金融政策や財政政策を自由に決められるわけではない」という現実です。
政府は長期的には、税金などの収入である「歳入」と、社会保障や公共事業などへの支出である「歳出」のバランスを取らなければなりません。このような財政上の制約がある以上、金融政策と財政政策は相互に影響を及ぼし合う関係にあると考えられます。
例えば、インフレが進むとお金の価値が下がるため、政府債務の実質的な価値は目減りし、財政負担は軽くなります。つまり、物価は財政に影響します。裏を返せば、物価や金融政策が財政状況から影響を受ける可能性があります。そのため、インフレ対策を考える上では、主役として語られがちな金融政策だけでなく、財政政策にも目を向ける必要があると考えられるのです。

私の研究では、家計や企業、中央銀行、政府といった経済主体の行動を数学的に表した「数理モデル」を使います。そして、中央銀行や政府の政策がインフレや景気にどのような影響を与えるのかを分析します。
研究のスタートには既存のマクロ経済モデルがあり、そこに先行研究のアイデアを取り入れるなど、新たな要素を加えることで、現実により近い形での分析を進めていきます。
なお、この研究は、必ずしも金融政策や財政政策に対して「こうあるべきだ」と主張しようとするものではありません。今、経済の中で何が起きているのかを理解し、それを数理的にモデル化することが私の関心の中心です。
しかし、繰り返しになりますが、現在、物価の安定を考える際には、金融政策中心に議論されることが少なくありませんが、金融政策と財政政策はお互いに影響を及ぼし合います。その関係性を数理モデルによって理解できれば、現実の政策を考える上でも重要な示唆が得られるはずです。逆に、このようなモデルがなければ見過ごしてしまう論点もあるかもしれません。そうした点で、社会や政策の理解に貢献できる研究だと考えています。

この研究分野に関心を持ったのは大学3年生のときです。金融政策と財政政策を1つの枠組みで扱う研究論文に出会ったことがきっかけでした。もともとマクロ経済学には興味がありましたが、金融だけ、財政だけと分けて考えるよりも、両者の影響を同時に考える方が現実に近いのではないかと感じ、この領域に進みました。
以来、研究を続けるモチベーションにつながっているのは、理論を扱う面白さに他なりません。そんな純粋な面白さが研究の原動力になっています。