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2024/08/06

【教育学部】すべては子供たちの充実した学びのために

教育学部 学校教育教員養成課程/二宮研究室

しばしばいわれることですが、算数・数学の学びの本質は公式などを暗記して正答を導くことではなく、未知の問題に対する解決策を考える力を身につけることにあります。しかし、実際の教育現場では、そのような力を身につけるための方法論が確立されていないのが現実です。本学教育学部の二宮裕之教授はこの課題を解決するための研究を続けている研究者の1人。具体的にどのような研究を行っているのか?お話を伺いました。

子供たちがどのように考え、理解していくか――その過程が重要

私が取り組んでいることをひと言で説明すれば、算数・数学の教科指導において、子供たちが充実した学びを得るためにはどう指導・支援すべきなのかを明らかにする研究です。
指導の方法や手立てを研究するには、その裏側にある様々なことを検証していく必要があります。私の研究の特長は、この部分の検証を科学的に行うところにあります。


研究では、アクション・リサーチという手法をしばしば用います。これは問題を特定し、その問題に対して実際にアクションを起こすことで得られた知見を検討・検証するもの。私の場合は、実際の教育現場で子供たちや先生方の活動(アクション)を観察するケースが多いです。
具体的には、過去の知見に基づいて用意したアクションに対して、子供たちがどのように表現するかを観察していきます。ここでいう表現とは、ノートの記述や子たちの活動・表情等々――。これらを観察することで、授業の内容や取り組んでいる問題について、子供たちが頭の中でどのように考え、理解しているかを推測していくのです。

わかったつもりで終わらせない――内省的記述表現活動とは?

これまで取り組んできた研究の内で、成果が出ているテーマの1つに、数学教育における「内省的記述表現活動」に関するものがあります。「内省的」とは、自分の中でいろいろ考えたり感じたりすること。例えば、授業で提示された問題が「難しい」と感じるだけでも構いません。「学んだこと」や「感じたこと」「考えたこと」をとにかくノートに書いていくことが「内省的記述表現活動」です。


研究では、この活動を通じて、学習者が自分の活動をふり返り、その活動や思考の過程をまとめることで、子供たちの理解が深まるということを明らかにしています。
自分の考えや感情を文章化するには、学んだ内容をもう1回振り返って、頭の中で再構成する必要があります。こうすることで、「わかったつもりで終わらせない」ようにすることが可能。つまり「問題が解けた」という事実そのものより、「問題を解くことができた」という事実を、子供たち自身が主観的にどう捉えているかを重視します。そして、自分の理解を客観的に捉え直させることで、その後の学習・指導に役立てていくことが重要ということです。
なお、この研究の成果は、今から約20年前に提案したものですが、現在では、子供たちに思考の過程をノートに書いてもらう指導方法が、実際の教育現場で数多く取り入られています。

どういうことかわかった!
――子どもたちの素晴らしい笑顔を増やしたい

私の研究に対する原点は、過去の経験の中にあります。
かつて数学教師として、勉強が決して得意とは言えない生徒の多い高校で教えた時の話です。どんなに数学が苦手で嫌いな生徒でも、きちんと内容を理解し、心の底から納得するととても魅力的な笑顔を見せてくれるのです。そのような子供たちの笑顔を増やしたいという思いを胸に日々の研究に取り組んでいます。


さて、現在の数学・算数教育の最大の問題は、ペーパーテストの結果でほぼすべての評価が決まってしまうことだと考えています。大切なことは、学んだことを踏まえて、そこから発展的に考える力を身につけることです。確かに、近年では、文部科学省が定める学習指導要領でも、このことが記載されるようになりました。しかし、現実には、そのような授業を行うスキルやノウハウは確立されているとはいいがたい。
結論めいたことを言うなら、自分で考える力を身につけるためには、子どもたちが主体的に学び、自分が取り組んでいる活動をきちんと認識することが大切です。私も以前からそのような学びが必要だと考え、研究を続けてきました。これまで行ってきた研究はもちろん、これから続けていく研究も、教育現場に何かしらのインパクトを与えられるものだと考えています。

二宮教授からメッセージMessage

理想の教師像に近づくには、「よい先生になりたい」という気持ちが大切

 私の研究室に入ると、算数や数学のよい授業ができる教員になるための素地を身につけることができます。
 他の職業と同じように、教員になって最初の5年くらいまでは、先輩や上司を見習いながら仕事を覚えていきます。そこで教員に求められるノウハウを身につけていく訳です。しかしさらに教員としての経験を重ねると、決まったノウハウが通用しないたくさんのことが起こってきます。そこで役に立つのが、自分自身が確立した教育観・指導観です。自身の教育観・指導観をもとに、自分自身で解決策を考えられるようになれば、どのような課題にも対応できる。
 研究室での学びや研究活動を通じて、自分自身の教育スタイルをぜひ確立して欲しいと思います。
 これから研究室に入る学生には、「よい先生になりたい」という気持ちをもって欲しいですね。そして、よい先生とはどんな先生なのかを、これまで自分が出会った先生方のことを思い浮かべながら、じっくり考えてください。あとは理想の教師像を目指して学んでいくだけです。

All in Campusならではの懐の深さが埼大の魅力

 埼玉大学が、地域と密接な関係を築いていることは、教育に関する研究を行う身としては非常にありがたいことです。埼玉県やさいたま市、その他の市町村の教育委員会の先生方と連携し、年に50回ぐらいほど、実際の教育現場に赴いて充実した研究活動ができているのは、まさにこのおかげだと考えています。
 学生にとっても埼玉大学で学ぶメリットはとても大きいと思います。まず思い浮かぶのが、様々な学部が同じキャンパスに存在することで、多様性のある学びの場が形成されていること。
 私自身、埼玉大学の卒業生ですが、当時、色々な学部の友人がいて、彼らから刺激を受けたことを覚えています。また、卒業したのは埼玉大学工学部だったにもかかわらず、数学教育学研究の道に進めたのも、同じキャンパスに教育学部があったことによる恩恵であるのは間違いありません。工学部在籍中に、興味の赴くままに教育学部の授業を受けたこともきっかけの1つだからです。そのような、懐の深さがあるのは埼玉大学のよいところですね。

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