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2023/10/27

【理学部】数学界で特に活発な研究分野である調和解析の未解決問題に向き合う

理学部数学科/ニール研究室

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  • 【理学部】数学界で特に活発な研究分野である調和解析の未解決問題に向き合う

数学界には数多くの未解決問題が存在するといいます。中にはたくさんの数学者が取り組みながらも、長年にわたり解決できないままのものも珍しくありません。理学部数学科のニール・ベズ教授もそのような問題の解決に取り組む数学者の1人。一体どのような研究に取り組んでいるのか? ニール教授に研究の魅力や今後の目標などと併せて語っていただきました。

19世紀の物理学者から始まったアクティブな研究分野

数学の3大分野といわれる「代数学」「幾何学」「解析学」。そのうち、微積分などを用いて関数の性質を明らかにする「解析学」を専門としています。

「解析学」で扱われる幅広いテーマの中で、特に研究が活発な分野の1つが「調和解析」です。「調和解析」は、1811年にジョゼフ・フーリエというフランスの物理学者が固体内の熱伝導を理解するために提唱した理論から派生し、現在、数多くの研究者が取り組む研究分野として知られています。

さて、1960年代にプリンストン大学のエリアス・スタイン教授が定式化した予想に基づく「スタインの制限問題」は「調和解析」の領域の重要な未解決問題とされています。そして、この問題と深い関わりがあるのが、「掛谷問題」という幾何解析学の問題。1910年代に日本の数学者である掛谷宗一博士が提示したものですが、この問題には未解決の部分が残されており、「スタインの制限問題」が解ければ、こちらの問題も自然に解けてしまうことがわかっています。私はこれらの問題を解決するための研究を続けているのです。

社会との関わりが感じられる「解析学」の魅力

父が数学者だったこともあって、物心ついたときにはすでに数学に親しんでいました。記憶には残っていませんが、3歳のときには、父に数学についていろいろ質問していたようです。

「調和解析」ひいては「解析学」の研究に本格的に取り組み始めたのは大学院に進んでからでした。当時は成績が良かったからという理由で、あまり深く考えず飛び込んだ「解析学」の世界でしたが、研究に取り組む内にその面白さにすっかり魅了され、今に至ります。

「代数学」や「幾何学」に比べると、「解析学」は具体的な計算に重きが置かれているのが特徴です。また「解析学」の理論はJPEGやMP3などの圧縮技術のアルゴリズムに応用され、世の中との関わりも感じることができる――。そのような点が魅力ですね。

現在取り組んでいる「掛谷問題」で未解決となっている部分は、高次元空間に関するところなので目に見えないばかりか、想像も及びません。そこが難しいところでもあり、面白いところでもあります。

じっくり時間をかけて取り組めることも数学の醍醐味

現時点での目標は、まず「スタインの制限問題」と「掛谷問題」の未解決部分を解き明かすこと。

とはいえ、一気にこの大きな問題を解決できるわけではありません。関係するたくさんの小さな問題を解決していくことが求められます。また「調和解析」は様々な分野につながっているので、解決の糸口がどこにあるのかわからないのも面白いところ。ですので知見を広げることも大切です。

ですので、自分ができること1つひとつにしっかり取り組んで、着実に研究を前進させていきたいと考えています。

すぐに結果が出難い数学の研究には忍耐力が必要。ですが、逆に考えれば、じっくり腰を据えて、何か取り組みたい気持ちがある人には向いている学問だと言えますね。

ニール教授よりMessageMessage

何をするにも役に立つ論理的思考力を磨くために

 ゼミは、教科書の内容を学生が皆の前で説明する形式で進めていますが、敢えて私からは教科書に載っていない切り口で質問するようにしています。なぜなら学生たちは教科書の内容を理解した上で、自分で考えないと答えられないからです。このようなやり取りを通じ、論理的な思考力を磨いて欲しいと考えています。
 高校までの数学は用意された答えを求めるための勉強です。しかし、大学で取り組む数学はそうではありません。決まった答えはなく、各自で考えたアプローチで答えにたどり着くものです。将来、どのような仕事に就くにしろ、思考力は必ず求められます。数学はそのようなスキルを身につけるにはうってつけの研究分野だと思います。

数学の3大分野をフォローするバランスのよさが魅力

 「代数学」「幾何学」「解析学」をバランスよく学べること――それが埼玉大学理学部数学科の学びの特徴です。そして、教員を務める研究者のレベルも非常に高い。そのような環境で数学の研究に携われるのは、学生にとって大きな価値があると考えています。
 また、多様な分野の研究者が同じ場所で研究をしていることは、私のような研究者にとってもメリットがあります。繰り返しになりますが「調和解析」の研究は他分野の視点も求められるので、他の先生と連携しやすい埼玉大学の研究環境はありがたいのです。
 それと自然豊かでのんびりしたキャンパスの雰囲気は気分転換にぴったり。ずっと机に向かっていてもよいアイデアは生まれません。鳥の声を聞き、樹々を眺めながら校内を散歩しているときにアイデアがひらめくことはよくありますよ。

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