2024/09/12
【工学部】分析化学の力で、新たな物質の発見・創出を実現
工学部応用化学科/齋藤研究室
2024/09/12
工学部応用化学科/齋藤研究室
「分析化学」とは、物質がどのようなものでできているのかを調べる手法について研究する学問領域。本学工学部の齋藤伸吾教授も、この分野の研究を専門としていますが、研究の内容がユニークなのは、これまで調べられなかった物質を計測する新たな手法の開発を目指すだけでなく、「分析化学」の手法を用いて、新たな物質を発見したり、つくり出したりすることも視野にいれた研究に取り組んでいるところ。今回は、そんな研究の概要について齋藤教授にお話しを伺いました。
大きな枠組みで捉えると、化学的な手法で物質の成分や組成、構造を調べる「分析化学」という研究分野が専門です。一般に「分析化学」というと、これまで計測できなかった物質を測る分析手法の開発などを行うイメージが強いのですが、私の研究では、それだけではなく、新たに開発した分析手法を使い、これまで見つかっていなかった分子を発見したり、新たな分子をつくることにも取り組んでいます。
例えば、物質に含まれる成分を分離させて計測する「分離分析」という手法がありますが、この手法を利用して、未知の「DNAアプタマー」を発見しようという研究もその1つです。
「DNAアプタマー」とは、 特定の分子と特異的に結合することができる配列DNAのこと。一言でいうと「分離分析」で特定の分子と結合するDNAと結合しないDNAをきれいに分ければ、これまで見つかっていない「DNAアプタマー」を発見することが可能になるのです。
「DNAアプタマー」は、抗体に代わる生体認識分子として医療診断、創薬などの生物工学での利用が大きく期待されています。細菌やウイルス、あるいはがん細胞を構成する分子にだけを反応して結合するような特殊な「DNAアプタマー」を発見できれば、新たな医薬品の開発に大きく貢献できるのはいうまでもありません。
私たちが独自開発し、特許も取得している「分離分析」の手法は、電気泳動という原理を利用しています。
電気泳動を用いた「分離分析」は、以前から利用されてきましたが、細胞や細菌類などの「分離分析」には向かないとされてきました。しかし、私たちは、細胞や細菌類を電気泳動で分離する手法を開発。その結果、分離が難しかったDNAと細胞の混合物をきれいに分離することが可能に。これまで分離できなかったものが分離できるようになり、様々な物質の発見にも成功しています。
これまで大腸菌や枯草菌などの細菌細胞、がん細胞、ウイルスなどを分析してきました。最近は、細胞から分泌される「エクソソーム」という物質に結合するDNAの分析にも取り組んでいます。さらに先ほど説明した未知の「DNAアプタマー」も、この手法を活用して発見しようとしているのです。
また、先ほど、新たな物質をつくることにも取り組んでいるとお話ししましたが、こちらの研究でも一定の成果をあげています。「DNAアプタマー」が、ある物質に結合したときに構造を変化させて、ある種のシグナルを出すという新物質の開発に成功しています。
私は大学時代から「分析化学」の研究に携わってきましたが、研究すればするほど「ただ調べるだけではなく、モノを生み出したり、新たなモノを発見したりすることが、世の中に大きなインパクトを与えることができる」と感じるようになりました。そして、限られた研究者人生の中で、できるだけたくさんの変な(?)分子に出会いたいと思い、「分析化学」を実現する手法の開発だけでなく、新たな分子の発見や創出に取り組むようになったのです。
現在では、「分析化学」という研究分野が、何かを分析するためだけのものではなく、新たな分子を認識したり、物質をつくったりできる研究分野であることを示していくことを長期的な目標に掲げて、研究に取り組んでいます。
常に新たな視点をもって取り組みを進めなければいけない研究活動には「生みの苦しみ」が付きまとうものです。それでも新たな発見に出あうと、毎回とても興奮するもの。そんな研究は、私にとって「楽しいもの」に他なりません。
実は、今回お話しした内容は、現在取り組んでいる研究テーマのほんの一部。幅広い研究に取り組んでいますが、これからも興味のおもむくまま、面白いと思ったことを追及していきたいですね。