2020/08/30
【教養学部】本物の文章、偽の文章とは何だろう?を考える
教養学部 教養学科ヨーロッパ・アメリカ文化専修課程 / 明星研究室
2020/08/30
教養学部 教養学科ヨーロッパ・アメリカ文化専修課程 / 明星研究室
取り組んでいる研究テーマは大きく分けて2つ。プラハ(現在のチェコ共和国の首都)に生まれ19世紀末から20世紀初頭を生きた作家フランツ・カフカと編集文献学です。編集文献学とは、テクスト(出版物などに記された文章そのもののこと)をめぐる信頼性や真正性を考える学問のこと。
例えば、現在、一般の方が読むことができるカフカの作品のほとんどは、彼の死後に断片的に残された手書き原稿を、友人であるマックス・ブロートが編集したものが元になっています。とすれば、その作品は、本当にカフカの意図通りのものといえるのか?そこには編集者ブロートの意図は混じっていないか?といった疑問が生じる。つまり、そのテクストは本当に正しいか?それは信じられるのか?こうした疑問を理論的に検証しようということです。そして、このような問題は、カフカに限ったことではありません。そもそも、編集という手を加えないで、テクストが一般の人にも読める出版物にまで仕上げられることはありません。ただ、その編集をおこなうのは、著者ではない。いいかえれば、私たちが手にするどんな出版物のテクストにも、著者以外の人の手が入っている。
編集文献学が扱うテーマは、印刷技術発明以前の古典的な作品――例えば聖書や古代ギリシャの哲学者の著作などはもちろん、あらゆる書物や作品に関係する問題だといえるのです。
また、デジタルメディアを介して大量の言葉に接する、現代のコミュニケーションが孕む問題を考える上で、何らかの示唆を与えることが出来ると考えています。SNSなどのデジタルメディアでは、発信する相手がどのような人かは分からないまま、情報を受け取るということが珍しくありません。それはある意味、文学作品も同じです。すでに人生を終えているカフカの気持ちなど、誰もわかるはずはありませんから──。
つまり、文学研究とは何かを突き詰めれば、言葉から人を理解するとはどういうことか?真実に聞こえるような嘘を見分ける、嘘のなかに真実を見つけるにはどうすればよいか?を考えるものだといえるでしょう。