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2023/11/20

【教養学部】美しさや倫理観など、言葉で説明できない感性の研究で世の中をよりよい世の中へ

教養学部 哲学歴史専修課程/加藤研究室

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読者の皆さんは、美的な感性などを研究する「美学」という学問を知っていますか? 本学教養学部の加藤有希子准教授は、そんな美学の研究を行う研究者の1人。美学の研究成果は世の中に大きなインパクトを与える可能性があるとのことですが、研究を通じて、一体どのようなことを成し遂げようとしているのか。美学の専門家としての活動と並行して小説家としても活躍する加藤准教授の研究内容に迫ります。

科学偏重時代に新しい倫理観を提示したい

研究分野は、美学、芸術学、色彩論、それから現代信仰論と多岐に渡ります。中でも、これから特に力を尽くしていこうと考えているのが、哲学の1分野である美学に関する研究です。

美学とは、いうなれば感性の哲学です。感性とは、はっきり認識できるけれども説明できないもののこと。例えば、美しいという観念は人々の間で共通認識として確かに存在しますが、「美しいと感じるものがなぜ美しいのか」は、はっきりと説明できない。そういうものについて深く考えるのが美学なのです。なお、美学という呼び方は、感性の代表的な観念に美しさがあるため、便宜上そのように名付けられていますが、研究のテーマは美しさに限りません。対象のテーマは実に多様です。

さて、美学の研究成果は、世の中に大きな影響力を与えるものになる可能性があります。例えば、宗教や政治は立場によって捉え方は人それぞれ。しかし、音楽や絵画、小説、詩などの芸術の美しさは、立場が異なっていても同じように感じるものです。つまり美学の研究によって、「美しさとは何か」がわかれば、伝えたい情報に非常に強い拡散力をもたせることができるかもしれないのです。

そのような思いで、取り組み始めたのが、新しい倫理観を構築するための研究です。例えば、ジェンダーギャップや人種の違いに起因する争いをなくすにはどうすればよいのかを考えていきます。

本格的な研究はこれからですが、争いをなくすヒントは過去の人たちの思考の中にあると想像しています。人類は17世紀の欧州で起こった科学革命により近代化を成し遂げました。この革命で科学が進歩した一方で、人々は科学的に説明できないものは排除するようになったのです。私は、現代社会が直面する問題は、そこに原因があるとにらんでいます。そこで、科学革命前に生きた古代や中世の人たちの考え方を呼び戻して、新しい美学観、ひいては新しい倫理観をつくれれば、様々な問題を解決できるのではないかと考えているのです。

よりよい世の中にするために、人々の意識を変えていきたい――この思いが研究に対するモチベーションですが、小説の執筆もそれを叶えるためのもの。研究成果を、専門家が読む論文や専門書にまとめるだけでなく、小説に反映することで世の中に広く知ってもらいたいのです。これは美学以外の研究も同じで、例えば芸術学の領域で長年研究を続けてきた点描画をモチーフにした『オーバーラップ』(水声社)や色彩論の研究から着想を得た『黒でも白でもないものは』(水声社)という作品を発刊しています。

 

言葉にできないものを言葉で表現するという矛盾をはらんだ美学に取り組む意義

元々、星や宝石などの美しいものや美術に関心があったため、周りの人の勧めもあり、大学で美学を専攻したことがこの道に入るきっかけでした。

大学院に進んでからもしばらくは美学の研究に取り組んでいましたが、転機が訪れたのは2004年のこと。米国に留学することになったのです。米国では美学はあまりメジャーな学問ではなく、どちらかというと美術史が盛ん。それで美術史の研究をすることに。以来、興味の赴くまま様々な研究を行っています。

実際の研究では、テーマが決まると関連資料を集め、ひたすら精読していきます。そして、必要に応じてメモを取り、情報を整理し、小説だったら小説なりに、論文なら論文なりに、学術書だったら学術書なりに、情報を積み重ねていく。ちょうど彫刻の制作で骨組みに粘土で肉付けしていくような感じです。

美学は、よく「研究そのものに矛盾をはらんでいる」といわれます。確かに、人々が説明できない感性を言葉にしようとしているので、そう思われるのは仕方がないことかもしれません。しかし、だからといって美学の研究を意味のないことだと決めつけるのは早計です。説明できないことやわからないことに向き合って、問い続けていくことは人類にとってとても重要なことですから――。

 

加藤准教授からメッセージMessage

個性的な発想を生む力と論理的思考力を伸ばすために

 美学と美術史学、芸術論などの講義をうけもっていますが、オリジナリティのある発想を生み出せる力を学生が身につけられるような指導を心がけています。オリジナリティのある発想は、常識的な考えに圧殺されてしまう場合がほとんど。ですので、意見を否定せず、学生たちが自由に意見を述べやすい場をつくるようにしているのです。
 例えば、講義中に、答えのない問いを提示して、学生同士で議論する時間を設けているのも、そのような取り組みの1つ。答えのない問について議論することで、自分の考えを論証する論理的思考力も身につきます。
 オリジナリティのある発想力と論理的思考力が身につけば、自分のことをきちんと理解し、自己表現もしっかりできるようになるでしょう。将来、学生たちにはそのようなスキルを活かして、社会における自分の真の役割に気付いて欲しい。そうして充実した人生を送ってもらいたいと思います。

学業も研究も集中して取り組める理想的な環境

 埼玉大学教養学部には、各研究分野の第一線で活躍する先生が揃っています。そのような先生方の指導を受ける学生は、それだけ質の高い学びを得ることができるということ。また、学生の数がそれほど多くないので、丁寧な指導を受けられるのもよいところだと思います。
 キャンパス内も大学周辺も、のどかで落ち着いた雰囲気なので、じっくり腰を据えて勉強するのにはうってつけの環境ではないでしょうか。それは私のような研究者にとっても同じ。研究がしやすい環境であることは間違いありません。
 他の先生も職員の方も親しみやすい人が多く、とにかく居心地がよいですね。

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