2023/04/25
【教養学部】世界的にユニークな日本のファッションとその歴史を社会学的な視点から解明
教養学部 ヨーロッパ・アメリカ文化専修課程/ベルトラム研究室
2023/04/25
教養学部 ヨーロッパ・アメリカ文化専修課程/ベルトラム研究室
日本における社会とファッションのかかわり方は、他の国からみると少し独特なようです。教養学部 ベルトラム・ラース教授は、出身であるドイツにいた頃にその点に興味をもち、洋装が普及し始めた明治以降の日本のファッション史の研究に取り組み続けてきました。具体的にはどのような研究を行っているのか? 研究内容や日本のファッションに興味を抱いたきっかけについて聞きました。
私が取り組んでいる研究では、日本が西洋文化を取り入れた明治以降の日本のファッションの歴史や独自性などを社会学的なアプローチから解明することを目的としています。
日本のファッションに興味をもったのは、1980年代に日本で大流行したDC(デザイナーズ&キャラクターズ)ブランドの登場がきっかけでした。代表的なDCブランドには川久保玲氏が手掛けた「COMME des GARCONS」や山本耀司氏の「Yohji Yamamoto」などがあります。
彼らのデザインは、世界4大ファッションショーの1つである「パリ・コレクション」で発表されると、大きな話題になりました。黒一色で統一したスタイルなど、ファッション界のそれまでの常識では考えられないデザイン手法が用いられていたからです。
当時、ドイツで学生をしていた私もその独創性に魅了され、彼らがデザインする服に憧れた1人。以来、日本のデザイナーたちは、いかにしてそのような独特なファッションを生み出すことができたのか? その過程を知りたいと思うようになったのです。
そのような思いをもって来日すると、日本におけるファッションと社会の関係性がとても独特なことに気付かされました。
その1つが、ファッションを趣味や遊びとして楽しんでいることです。例えば、数々の男性ファッション誌が発刊されていたことは、それを裏付ける事実の1つですが、ファッションに興味をもつ若者が少ないドイツでは、そのような状況は考えられません。
また、日本のビジネスパーソンが、仕事着として当たり前のように着ているスーツも、欧州では権威の象徴です。経営者や法律家などの限られたエリートが着るものというイメージが強く、ドイツではそれほど一般的な服ではありません。
そして、現在では、そのような違いを、主に日欧で比較しながら、日本のファッションの歴史がどのように形成されてきたのかを、社会的な背景から明らかにしようとしているわけです。
なお、日本のファッションが独特なものになった要因には、洋装が文明開化とともに広がったことがあると考えています。歴史的な背景がない分、洋服に対して、自由で独特な文化が生まれたのです。
DCブランドへの興味からスタートした研究ですが、当然、研究対象はDCブランドにとどまりません。例えば、明治以降の新聞に掲載されたファッションに関する広告や世界的に人気な「A BATHING APE」などのストリートファッションブランド、Kawaii系のファッションなども研究対象です。
とても美しい和服の文化がありながら、比較的すんなり西洋文化を受け入れたことや、就職活動の際に学生が皆が同じスーツを着ることも興味深い点です。このようなことは日本の社会や国民性とのかかわりがあると思いますが、それを社会的視点から1つひとつ解き明かしていくことに面白さを感じています。
つまり、日本の社会や文化を映し出す鏡として、ファッションに着目しているのです。いずれにせよ、研究したいことは山ほどありますね。
研究成果は、主にドイツ語でまとめて発表しています。海外では、日本のファッションをまとめた文献や資料は少ないので、日本のファッションを海外に紹介する意味では、大きな役割を果たせると考えています。また、日本の皆さんにとっても、自分たちの社会や文化に対する新たな発見や気づきを得るきっかけになれば嬉しいです。