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2020/11/05

【理学部】神経や脳をもたない植物だって、自分が傷つけられたことをわかっている?

理学部 分子生物学科/豊田研究室

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  • 【理学部】神経や脳をもたない植物だって、自分が傷つけられたことをわかっている?

攻撃されたことを全身に伝えるカギはうま味成分?

植物が、外部から何かしらの力を受けた時、それをどのように感じて応答しているか?その仕組みを解明する研究に取り組んでいます。

例えば、農学の世界では、ある葉っぱが虫にかじられると他の葉っぱの抵抗性が上がることが現象として知られていました。しかし、脳や神経をもたない植物が、どのように自分が傷つけられたことを感じて、その情報を全身へ伝えているのかは、わかっていませんでした。そこで私の研究室では、この疑問に対する研究を行い、植物が全身に傷害情報を伝える仕組みを解明したのです。

植物が虫にかじられるなどして細胞や組織が傷けられると、そこからうま味成分として知られるグルタミン酸が流出します。そして、細胞膜にあるグルタミン酸受容体と結合。結合した結果、グルタミン酸受容体は活性化しますが、この時、細胞内にカルシウムイオンが流入します。この細胞内のカルシウムイオンの濃度上昇がシグナル波となって、養分の通り道である「師管」を通って、全身に情報を伝えるのです。

機能が乏しい植物に健気さを感じてしまう

この研究に取り組んだきっかけは、大学院時代に在籍していた医学部の研究室で、傷害、重力、接触といった「力」と「生物」の関係を解明する「メカノバイオロジー」に携わったこと。以来、植物にフォーカスして研究を続けています。

研究の内容は様々で、先に話したものの他、植物が重力を感じる仕組みもテーマの1つ。現在は、触れると葉が閉じる「オジギソウ」や、葉を閉じて虫を捕食する「ハエトリソウ」が葉を動かす仕組みの解明に注力しています。
植物の機能は、色々な組織や器官を備えている私たちの身体に比べると非常に乏しいと言えます。実際に解剖してみても、随分簡素な構造をしていることに気づきます。それなのに、動物同様の機能をもっているのは、なんとも健気だと思いませんか? 私はそんなところに面白味を感じています。

最終的には、植物と動物の境界――動物らしさや植物らしさとは、どのようなものなのかということを科学的に解き明かしたいですね。

観察に用いる遺伝子を組み換えた植物

グルタミン酸を使った新しい農薬が食糧問題を解決?

私の研究の軸には、イメージング技術があります。この技術によって、植物の中で起こっている反応をリアルタイムで可視化することができているのです。
具体的には、蛍光顕微鏡で観察すると、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇した部分が光るように、遺伝子を組み換えた植物を使って、情報を伝達する様子を見ています。

仮説を立てて、実験で実証していくのが、研究の基本ですが、現在は、仮説からスタートするのではなく、この新しい装置を使って、面白い生命現象が見えないかという視点からの研究も行っています。
さらに基礎研究以外に、作物の抵抗性を上げることで、害虫対策に貢献するグルタミン酸型の新しい農薬や有機肥料の開発にも取り組んでいる最中です。このような農薬ができれば、使い続けると害虫が耐性をもってしまったり、食品中に農薬が残留してしまうという従来の殺虫剤がもつ問題を解決できると考えています。

2019年に発表された国連のレポートでは、2050年には世界の人口が97億人(発表時77億人)になると報告されていますが、そうなると食料の生産量を大幅に増やさなければ間に合いません。私たちの取り組みが、そのような課題に対して、何かしらのソリューションを与えることを信じて、日々研究に取り組んでいます。

刺激を与えた箇所が光り
その光が全身に広がる現象を観察する様子

研究に必要な虫をゼミ生と採ることも?! 仲の良い研究室です

 

埼大公式YouTubeにて動画公開中!

魅力溢れる豊田研究室の紹介動画を、埼玉大学公式YouTubeチャンネルで公開しています。

皆様是非ご覧ください!

豊田 正嗣

豊田准教授より受験生へMessage

伝える技術を磨き、視野を広げて、グローバルに活躍できる人材に

 よく言われるように、日本の学生は、海外の学生に比べると少し内気なところがあるかもしれません。
 海外の学生は「よいデータを取ってよい発表するのは当たり前。平凡なデータでもいかに面白い発表ができるかが大事」という考え方で研究発表に臨みます。日本の学生はよいデータをコツコツと収集することに長けています。だからこそ、自信をもって、それをアウトプットできるようなスキルを身につけて欲しいです。
 また、研究室の学生には、視野を広げて、グローバルな視点を養って欲しいと思います。そのためには英語力が必要不可欠。そこで研究室のミーティングなどは、基本英語で行っています。研究室に入ったばかりの頃は皆苦労していますが、徐々に英語力もついてきます。その結果、学会などで堂々と英語で発表している様子を見るとやはり嬉しいですね。

埼玉大学の規模感と取り巻く自然が研究に貢献?

 埼玉大学周辺の自然環境は、いまとなっては、研究に欠かせない存在になりました。ある意味、非常にマニアックな私の研究は、実験装置の製作だけでなく、実験に使う植物や虫の採取・育成も自分で行わなくてはなりません。そこで大学の近くを流れる荒川の土手に出かけて、虫取り網をもって虫を採取したりしています。
 また大学の規模が比較的小さいので、他の先生方と連携しやすいことも、埼玉大学で研究するメリットの1つ。研究内容によっては、他の研究室の顕微鏡を使わせてもらったりしています。
 学生の数もそれほど多くないため、教員と学生との距離が近く、丁寧な指導を受けられることが、学生が埼玉大学の理学部で学ぶメリットだと思います。理学を学び始める場としては、うってつけな環境ですね。

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