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2023/06/15

【教育学部】よりよい音楽科教育をめざして、子どもたちが子どもたちのやり方で用いる知識に着目!

教育学部 学校教育教員養成課程 芸術専修 音楽分野/森研究室

  • SAIDAI CONCIERGE
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  • 【教育学部】よりよい音楽科教育をめざして、子どもたちが子どもたちのやり方で用いる知識に着目!

音楽は好きだけど、音楽の授業は好きじゃない――このような思いをもつ子どもは残念ながら少なくありません。本学教育学部の森 薫准教授は、そんな矛盾めいた状況を打破するため、従来の音楽科教育では見過ごされてきた非言語的な知識、直観的な知識、さらに感情等の“暗黙知”“身体知”をも包含する音楽学習の知識研究に取り組んでいます。その内容とは一体どのようなものか? 森准教授に説明していただきました。

音楽の授業中、合唱しない子は果たして何も学んでいないのだろうか?

音楽の授業を受ける子どもたちは、授業中に耳にする楽曲に対して、様々な反応を見せてくれます。例えば、「いやだー!」と好き嫌いを率直に感情のままに述べたり、聴こえてきたメロディを替えうたにしたり、リズムに合わせて友達と一緒にカラダを揺らしたり――。

私は、従来の音楽科教育では、学習に取り組んでいる姿と捉えられにくかったそのような発話や行為も知識のあらわれであり、音楽学習を支える不可欠な要素であるという立場で研究を進めています。

例えば、過去に調査した小学3年生のクラスでは、ある子どもが歌詞のない合奏曲オリジナルの歌詞を即興的につけて歌ったことをきっかけに、その歌が子どもたちの間で即座に広まりました。この曲は、多くの小学生にとってとっつきにくい短調で、はじめは子どもに不人気でした。でも彼らは歌詞をつけて楽曲に自分たちなりの意味を与え、自分たちの文化圏に組み入れ、自分たち自身の音楽的価値観を拡張し、その曲を好きにもなっていったのです。この一連の出来事は授業をなさっていた先生にも予想外でしたが、先生はずっと笑顔で、子どもたちの替えうたに寄り添ってピアノ伴奏をし、子どもたちの歌の創出と共有をサポートしていました。

また、音楽の授業の合唱中に皆と一緒に歌っていない子どもは、一見すると「学んでいない」ようにも思われます。しかし、そのような子どもが、音楽室から帰る廊下を歩きながら、自分の歩調に合わせてその歌を口ずさむこともあるのです。子どもたちの授業への参加は一人ひとり異なります。それが他の子どもや教師とのコミュニケーションによって織り合わされて、様々な知識・技能が習得されているのです。

生きる上で必要不可欠な音楽を学ぶ音楽科教育をよりよいものに

好きなように歌詞をつけることや、授業中の合唱で歌わずに1人になって初めて歌うことは、従来の音楽科教育の観点からいえばやや逸脱した行為だと捉えられるかもしれません。しかし、そのような行為も音楽学習のプロセスの中で意味あるものとして肯定でき、その積み重ねから、授業のねらいとなっている知識や技能の習得に至ることができると考えられるのです。


恐らく小学校や中学校等の先生方の多くは、そのことに経験的に気付いていらっしゃると思います。ただ、“暗黙知”“身体知”などと呼ばれる、そのような知識を学校教育が積極的には扱って来なかったため、「題材の中で設定された(狭義の)知識・技能を身につけたか?」だけが評価の観点になりがちです。しかし、音楽科の独自性や存在意義は、まさにその“暗黙知”“身体知”をつよく伴う私たち人間の実践を扱っている点にこそあります。ですから、これをテーマとする研究に取り組むことには大きな意義があると考えています。

研究の目的は、子どもたちの音楽学習のリアリティを、多角的な視点から解明すること。実際の彼らの姿の観察と、認識論や学習論、音楽学、文化人類学といった様々な理論を往還させて考察します。

この研究の成果を発表することで、“暗黙知”や“身体知”も子どもの、そして人間の音楽学習において欠かすことのできない知識であることが知られ、よりよい授業方法の開発に結びつくことが期待できます。そうなれば、子どもたちはもちろん、そのことに実は気づいていた先生方も、安心して、そして楽しみながら新しい音楽科授業に取り組めるようになるのではないでしょうか。ささやかでもそのお手伝いができたらと思うのです。実際、小・中学校の先生方から、自分が授業で感じていることの答えが書かれていた、子どもたちの現実を捉えているところに共感した、と言っていただくことがあり、大きなやりがいを感じています。

人間にとって、音楽は、食事同様、生きる上で必要不可欠なものです。そんな音楽を学ぶ音楽科教育をよりよいものにしたい――。そのような気持ちで日々の研究をしています。

 

 

森准教授よりMessageMessage

常識を疑うスタンスを身につけて

 この2、3年、COVID-19の影響で、教育現場を対象としたフィールド調査を行うことが困難でしたが、そろそろ再開しつつあります。今後は、研究室の学生に同行してもらうことも増えると思いますが、学生にとっては、実際の授業を見て先生方の指導の工夫から学び、同時にフィールド調査を行うスキルやノウハウを身につけるよい機会になると考えています。
 研究室で学ぶ学生たちには、何事もそのまま無批判に受け入れるのではなく「本当にそれでいいのか?」「もっと良くする方法、もっといいアイデアはないか?」と常に考える習慣をつけてほしいと思っています。また、わからないこと・答えのないことそれ自体を楽しんでほしいですね。多くのゼミ生が教員になりますが、教員としてだけでなく、社会人として、そのような視点をもって生きることは大いに人生を豊かにすると思います。そして、音楽と自分、子ども、そして社会との関わりを自分なりに考え試行錯誤しながら、音楽科教育のスキルを高めてくれることを願っています。

ピアノ、声楽、フルート――第一線で活躍する音楽家の指導が受けられる

 埼玉大学 教育学部 学校教育教員養成課程 芸術専修 音楽分野は、少人数制で、学生と教員の距離が近いため、学生1人ひとりのニーズにあわせた、きめ細やかな指導やサポートが受けられるのが特長の1つ。また、私のほかにはピアニストで作曲家シューマンの研究も行う東浦亜希子准教授、オペラ歌手の小野和彦准教授、フルート奏者でフルート教育のエキスパートでもある竹澤栄祐教授など、第一線で活躍する音楽家の先生から直接指導を受けられるのも大きな魅力です。
 音楽分野の学生たちは毎日、教育学部コモ1号館の練習室で楽器や歌を練習したり、資料を集めて模擬授業の準備をしたりと熱心に学修に取り組んでいます。自主コンサート等の課外活動も盛んです。卒業する学生の多くが県内外の小・中・高等学校で教員として活躍しますので、日々の私の講義の内容が、彼らを通じて未来の子どもたちに何らかのかたちで伝わるのだ、と思うととても励みになり、責任もつよく感じます。教員を目指す、そして音楽を愛する皆さんとの出会いを心待ちにしています。

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