2022/02/25
【経済学部】よりよい未来を描くために日本の社会保障制度の問題点を浮き彫りに
経済学部 メジャー:「経済分析」「法と公共政策」/高端研究室
2022/02/25
経済学部 メジャー:「経済分析」「法と公共政策」/高端研究室
財源不足など、様々な課題に直面する日本の社会保障制度。財政学が専門の高端正幸准教授は、この問題を解消するべく、国際比較などの手法を用いた研究を日々行っています。
国や地方公共団体の経済的な活動を研究対象とする財政学において、私がフォーカスしているのは社会保障や福祉に関わる分野です。
戦後の日本では、どちらかというと国民負担を抑えるために、社会保障の内容を限定してきた歴史があります。国民の所得水準が右肩上がりであった高度経済成長期にはそれで問題はありませんでしたが、高齢化が進み、国民の所得水準も上がらなくなった現在では、うまく機能していません。つまり、日本の社会保障制度は、世の中の変化にあわせてうまく転換できていないのです。
そのような状況から脱却するには、まず「なぜ転換できないのか」を解明しなければなりません。私の研究の根本的な関心はその部分にあります。
研究では、例えば欧米諸国と比較して、日本の財政の特徴を明らかにしていきます。ただし、財政を対象としているからといって、税金や予算などのデータを見ているだけでは謎は解けません。財政問題を解明するには、政治、経済、社会など、様々な要因を捉えることが必要です。
例えば、社会保障の議論では、福祉が充実した北欧諸国のやり方を踏襲すればよいという意見を聞くことがあります。確かに北欧諸国の社会保障制度は充実していますが、その一方で、負担が重く、それを国民は受け入れているという事実があります。しかし、日本の国民は他の国に比べると税負担を嫌う傾向がある。恐らく、そのような傾向を見過ごしたまま、単純に制度だけ見倣ったところでうまくいくとは考えにくいのです。
このような比較的大きな視点で研究を行っていますが、研究の成果は数理的な統計分析で説明しきれるものばかりではないので、データが重視される現代では評価されにくいところがあるかもしれません。だからといって、放置しておけば問題の解決は困難だし、データ分析ではとらえきれない現象もある。誰かが問い直していかなければならないことだと考えています。
最近では、2019年に無償になった幼児教育・保育をテーマにした論文をある雑誌に発表しました。
幼児教育・保育の無償化に対しては、未だに「理解できない」という声が聞かれます。反対派の主な意見は「以前は高所得層から保育料を多く取っていたのだから、保育料を一律にすれば低所得層が損をすることになる」というものです。
確かに無償化される前の保育料は応能負担といって、高所得層には高い負担を強いる仕組みを採用していました。しかし、歴史をひも解くと日本における応能負担は、公平性を担保するよりは、財源を最大化するという意味合いが強いことがわかったのです。しかし、そのような背景は一切語られずに、損得勘定だけで議論されている。そこで論文では保育を受ける子どものことを考え、その親に保育料を負担させる意味を改めて問い直すべきだという問題提起を行いました。
研究の最終的な目標は、よりよい未来の実現に少しでも貢献すること。実際に東京都税制調査会などにおいて政策提言を行っていますが、そのような取り組みは引き続き行っていく考えです。
「世の中の矛盾を何とか正したい」という気持ちが研究者としてのモチベーションにつながっています。研究は研究で成果を出しながら、そこで得た成果を社会に還元し続けていきたいですね。
この研究の難しいところは、考え抜くべきことがいくらでもあるところです。やれることには限界があるので、場合によっては問題意識を共有する人たちと共同研究を行うこともあります。現在進めているのも、そのような研究です。日欧米の先進6ヶ国の財政学と政治学の専門家により、各国民が税負担をどれだけ受け入れていて、その違いがなぜ生まれるのか? その要因を解き明かそうとしています。
いずれにせよ、リミットがある中で、何にフォーカスし、自分が求める成果への近道をどう見極めるかが研究者としてのセンスが最も問われるところですね。