2022/10/26
【教育学部】人により異なる運動・スポーツ指導の最適解を見つけ、実践するために
教育学部 学校教育教員養成課程 身体文化専修 体育分野/菊原研究室
2022/10/26
教育学部 学校教育教員養成課程 身体文化専修 体育分野/菊原研究室
スポーツ選手の能力を最大限に引き出すためのサポートを行うスポーツコーチング。教育学部の菊原伸郎 准教授は、そんなスポーツコーチングに関する研究を行っています。かつて浦和レッズに所属していた元Jリーガーでもある菊原准教授が取り組む研究内容とは一体どのようなものなのでしょうか?
専門はスポーツコーチング学になりますが、中でも、私が長年携わってきたサッカーを軸に指導法や技術習得、チーム強化に関する研究に力を入れています。
例えば、ボール操作の個別指導法を確立することも研究テーマの1つです。ボール操作と関係が深い股関節の回旋能力に着目して、股関節の動きとバランス能⼒を測定する機器を⽤いて人によって異なる動きを測定・分析することで、適切かつ柔軟な個別指導を実現したいと考えています。
また、運動環境の研究として、大学のサッカーグラウンドに天然芝を植え、人工芝との差異を明らかにする取り組みも進めています。天然芝には、選手のパフォーマンス向上や怪我の予防効果など、様々なメリットがありますが、近年、芝生の上で行うスポーツの競技場では、人工芝を採用するところが増えているのが現実。研究を通じて、そのような状況に一石を投じたいのです。
私の研究は、トップアスリートに限ったものではありません。現在、教育学部に所属していることもあり、児童に対する指導に着目した研究も行っています。
その一環として取り組んでいるのが、視覚障がい者サッカーや、サッカーの戦略や戦術を理解するのに役立つ囲碁を学校教育に導入する可能性について考察する研究です。
視覚障がい者サッカーの導入は、インクルーシブ教育(障がいの有無にかかわらず、同じ教育を受けること)実現の一助になるだけでなく、運動が苦手な児童に対する適切な指導法の模索に寄与できると考えています。
解剖学の専門家によれば、身体の構造上、生まれつき運動が苦手という人は存在するようです。そんな人に対して「努力が足りないから運動ができない。頑張ればできるようになる」というのは酷というもの。そこで、運動が苦手というハンディキャップを視覚障がいと同様に考えて視覚障がい者サッカーをとらえ直せば、そのような児童への適切な指導法を見出すことにつながるのです。
研究を行う上で心がけているのは、スポーツや教育の現場を意識すること。いくら研究室内で優れた研究をしていても、現場との距離が離れていて、研究成果が反映できなければ意味がありません。だからこそ、実践研究にこだわっています。
繰り返しになりますが、研究の成果は、トップアスリートの能力向上に限ったものではありません。一般の人々がスポーツや運動に携わることで、幸せに生きていける社会づくりに役立つ意義深い研究だと感じています。
さて、皆さんは、体育という教科は何のためにあると考えていますか?
私は「自分の命を守るためにある」と考えています。
例えば、交通事故や災害に遭遇した際、瞬時に状況を把握して、身を守るために身体が使えれば、危険を回避する確率はグンと上がります。
また、自分の力を受け入れて、足りないところやできないところ、うまくいかないところを認識し、挑戦を続ける――そんな力を養うのにも体育が役に立つと思います。いわば、生きるための原動力を育てるのが体育という教科だと言えるのではないでしょうか。
近年、運動やスポーツが嫌いな子どもが増えていることが問題になっていますが、「運動が苦手な児童がたくさんいる」事実が明らかになっても、なぜそのようなことになっているかは、あまり研究されてきませんでした。そのため「努力が足りない」というような精神論や、先生の教え方が悪いというような論調で問題が語られがちだったのです。
しかし、先に紹介した股関節の回旋能力の測定装置のようなものを使って、運動が得意な児童と苦手な児童で身体の使い方が異なることが誰の目から見てもわかるようになれば、どうでしょう。運動が苦手な子はうまく身体を使えない要因が、運動が得意な子はさらに能力を伸ばすために必要なことが見えてきます。その結果、適切な個別指導ができるようになるのです。