2024/12/24
【教養学部】難民を受け入れる社会のあり方を探る
教養学部 現代社会専修課程/大茂矢研究室
2024/12/24
教養学部 現代社会専修課程/大茂矢研究室
在留外国人が増加し続ける日本社会。その中には、母国を追われて来日した難民も含まれます。自らの意志で母国を離れた訳でない難民の人たちとよい関係を築くために、受け入れる国の人たちはどうすればよいのか?その答えの解明に正面から向き合う本学教養学部の大茂矢由佳先生の研究に迫ります。
日本で暮らす外国人が増えていることは、周知の事実です。では、その中に難民が存在することを意識している人はどれくらいいるでしょうか。
母国以外で暮らす人は「移民」と一括りにされがちですが、移民と難民では、母国を離れた理由が異なります。
多くの場合、移民はより良い生活を求めて母国を離れます。つまり、彼らは自発的に移住した人たち。しかし、難民は好き好んで母国を離れた訳ではありません。政治的、宗教的、その他の理由を背景にした暴力や抑圧、 身体拘束、人権侵害などから逃れるために避難してきた人たちです。また、戦争や内戦などの武力衝突から逃れた人たちは「避難民」と呼ばれることもあります。
国連の難民条約に加盟する日本は、1970年代から難民の受け入れを行ってきました。最近では、ミャンマーの政情不安やロシア軍によるウクライナ侵攻などの影響で、日本に保護を求め、認められる人の数は増えています。にもかかわらず、日本社会は難民に対する意識や理解が低いように見受けられます。
例えば、SNSの投稿を分析すると、移民と難民を一括りに考える日本人が多いことが見てとれます。在留外国人にネガティブなイメージをもつ人はしばしば移民や難民に対して「日本が嫌なら母国に帰ればよい」旨の投稿をします。しかし、難民は帰りたくても母国に帰れない事情を抱えた人たちなのです。
難民問題の理想的な解決策は難民が生まれない世の中をつくることです。しかし、残念ながら今も世界中で難民は増え続け、2023年には1億人を突破しました。こうした現実がある中で、安全な社会に暮らすわたしたち日本人が、彼らにどのように手を差し伸べるべきかを考えることが重要だと考えています。
私の研究は、日本社会が難民をどのように捉えているかを明らかにするもの。まずは現状を把握して、難民を受け入れる側がどのような意識をもつべきかという考察につなげていきたいと考えています。
研究では「『難民』と聞いてイメージすること」や「難民の受け入れに対する意識」などについて、一般の方に対するアンケート調査を行ったり、新聞をはじめとする報道メディアやSNSで難民がどう扱われているかを分析したりしています。
これまで日本における難民研究では、難民本人にインタビューを行うなど、難民そのものにフォーカスした質的な内容がほとんどでした。その点、私が取り組む研究は、アンケートによる量的調査を重視し、難民を受け入れる社会にフォーカスしている点がユニークです。
だからといって難民の側に一切の目を向けないというわけではありません。直接の研究対象は日本人ですが、難民や避難民の方にお会いして、話を聞くことも継続的に行っています。受け入れられる側と受け入れる側、両方を理解しなければ、難民を取り巻く状況を適切に把握することは困難ですから――。
この受入れ社会側にフォーカスした難民研究は、移民を受け入れる社会の研究にも役立ちます。例えば、難民に対するヘイトに関する研究手法は移民にも応用可能でしょう。難民研究で培ったノウハウには、在留外国人全体の課題解決に貢献できる可能性も秘めています。
もちろん、来日した理由が異なる移民と難民は、抱えている事情や必要とする支援が異なる場合が多く、分けて考えるべき存在です。一方で、日々の暮らしの中で難民自身が「わたしは難民です」と表明することは考えにくく、地域社会に入ってしまえば、日本人にとっては移民も難民もどちらも「外国人」です。そのため、在留外国人と日本人がいかによい関係を築き、お互いが住みやすい環境を構築するのかという課題は、移民研究でも難民研究でも共通して検討されるべきものであると考えています。
少子高齢化が進み、人手不足が深刻化する日本において、在留外国人数はこれからさらに増加すると予想されます。そのような中で、わたしの研究の成果が、外国人との共生社会を実現するための礎になることを考えながら、日々の研究に勤しんでいます。