2021/11/10
【教育学部】理科教育の課題を改善し、質の高い科学教育を実現させる
教育学部 学校教育教員養成課程/小倉研究室
2021/11/10
教育学部 学校教育教員養成課程/小倉研究室
小学校では大好きな教科なのに、中学に上がった途端、苦手意識を持つ生徒が増えてしまう――そんな「理科」を取り巻く様々な課題の解決を目指す教育学部の小倉康教授。今回は小倉教授の研究内容を紹介します。
理科の教育目標や教育内容、教育方法、教師教育などをテーマとする「理科教育学」を研究していますが、その中でも小・中学校から高等学校の理科教育が主な研究対象。具体的には、国内外の文献調査やアンケートによる実態調査、開発した教材や指導法を用いた学校での検証授業などを行っています。
さて、現代社会で生活する私たちが、社会で充実した生活を送るためには、一定レベルの「科学的リテラシー(科学的な知識、能力)」が必要です。
例えば、世界的にCO2を削減するための取り組みが行われていますが、一部の人たちがいくら一生懸命取り組んだところで、自分は関係ないと考える人がいれば実現のハードルは上がってしまいます。これはCO2削減だけでなく、新型コロナウイルス感染症の拡大防止然り、エネルギー問題然り、現在私たちが直面している様々な課題も同様です。そして、このような課題を解決するには、やはり地球上に住む一人ひとりが足並みを揃えなければなりません。
そのためには、数多くの人が「科学的リテラシー」を身につけることが必要不可欠ですが、現状では、まだまだ不足していると言わざるを得ません。そこで、理科の教育のシステムを発展させて、質の高い科学教育を提供することで、国民全体の「科学的リテラシー」の底上げに貢献したいと考えているのです。
日本では「理科が重要」だという意識が他の国に比べて希薄なようです。私が行った調査では、「理科が生きていくうえで重要な学習」だと考える中学3年生の割合は、他の教科に比べると小さく、高校生になるとその割合はさらに低下するという結果が出ています。
また、ほとんどの人が、小学生の時に理科が大好きだったにもかかわらず、中学校に上がった途端、苦手意識を持ってしまう傾向があることも分かっています。
「科学的リテラシー」を向上させる解決への近道は、理科に対するそのような意識を変えて、学習意欲を高めること。つまり、充実した暮らしを送るためにも、世の中の様々な課題を解決するためにも、理科が重要な役割を果たすことが実感されると共に、生徒が苦手意識を持たないように理科教育を改善することが必要だと考えているのです。
そして、その実現のために、期待される取り組みが「中核的理科教員」の活用です。中核的理科教員とは、学校の理科教育を牽引する役割を担う教員のこと。例えば、理科を受けもつ他の教員に、効果的な授業の方法をアドバイスしたり、教材を提供したりしますが、その活動によって「学校全体の児童生徒の科学的リテラシーを向上させる」ということが、研究により明らかになっています(図参照)。
中核的理科教員が中心となって、授業の改善や教員研修を行ったり、教材整備を充実させることで、「理科はよくわかる」「好きだ」「大切だ」「役立つ」「関係する職業に就きたい」と意識する生徒の割合が高まり、それに伴って理科学力が向上する効果が認められたのです。
中核的理科教員を育成し、数多くの学校で活躍してもらうことが、理科教育が直面する課題を解決する方法の1つとして期待できますが、現実では、若手教員にとって、理科授業力を高めることは困難な状況だと言えます。なぜなら学校業務の多忙化などにより、理科授業に関する教員研修の機会は乏しくなる一方だからです。
そこで、埼玉大学が主体となって「理科モデル授業オンライン研修会」を開催し、熟練の中核的理科教員の理科授業研究にインターネットを通じて若手の教員が自主的に参加できるような仕組みを構築しました。併せて、いつでもどこからでも研修に利用できるWebサイトの整備も進めている最中です。
また、昨年度、埼玉大学教育学部附属幼稚園の園長に就任して以来、幼児が自然環境の変化と多様性に触れながら成長することの大切さを日々実感しています。これまでは小学校から高等学校までの理科教育を中心に研究してきましたが、幼児期から一貫性のある理科教育の構築に寄与するような研究成果を導きたいとも考えているところです。