2021/05/10
【理学部】結晶中に隠されている新しい電子状態を探して
理学部 物理学科/小坂研究室
2021/05/10
理学部 物理学科/小坂研究室
今回は、理学部物理学科 小坂先生の研究をご紹介。
物理学を研究する魅力について語ってもらいました!
物質の性質を扱う物性物理学が研究分野ですが、その中で、私が主に取り組んでいるのが、レアアースと呼ばれる希土類元素を混ぜて作る希土類化合物。この化合物の新物質開発と物性測定を行っています。
具体的には、希土類化合物の結晶を作り、それを低温度や強磁場、高圧力といった、通常とは異なる環境下で結晶中の電子がどのような運動をしているのかを調べていくのです。
物質の性質を調べる上で重要になるのが、質の高い結晶を作ること。純良な物質であればあるほど、そこから得られる情報が多いからです。そこで、物質の性質を調べるだけではなく、きれいな結晶を作ることも研究対象に含まれます。
化合物を作ることはそれほど難しくはありませんが、それをきれいな結晶にすることが困難。1年かけても思ったような結晶ができないことも珍しくありません。
さて、希土類元素というと、永久磁石で最も強力なネオジム磁石に使われる「ネオジム」がよく知られていますが、最近私が注目しているのが「イッテルビウム(元素記号はYb)」という物質。「イッテルビウム」は、融解すると蒸発しやすく、化合物が作りにくいのですが、私たちの研究室では、アルミニウムとカーボンを結合して、純度の高い化合物を作ることに成功しました。(上記写真 右)
この化合物は、絶対零度付近まで温度を下げると、結晶中で隣り合うそれぞれの原子の原子核の周りをまわっている電子の向き(スピン)がペアを組む、スピン一重項と呼ばれる状態を形成します。希土類化合物としては初めての例でしたので注目を集めることになりました。この電子スピン状態は、物質で言えば固体に相当するもので、条件を整えれば液体状態も存在するはずだと様々な理論が提案されています。実験的に証明するためにはまだ数々のハードルがあり、その条件に見合う新しい化合物の探索を進めているところです。
いずれにせよ、研究の目標は、新しい物質の中で起こっている未知の電子状態を見つけるということになります。
この研究の醍醐味は、他の人が見たことのない物質や現象を、一番初めに見られるというところ。新しい物性に気付いたときの喜びは何物にも代えがたいものです。
研究室の学生たちは、ヒントや気づきを与えてくれる存在です。きっと研究に対して偏見がないからなのでしょう。こちらが予期していないような結果を持ってきてくれることがあります。セオリーではやってはいけないことが、よい結果につながることがあるのです。そのようなところも、この研究の面白いところですね。
また、1つの物質に対して様々なアプローチで実験を行うので、実験結果のデータはたくさんあって、どんどん頭の中に蓄積されていきます。すると、ある時パズルのピースが埋まるように、データの関係性が見えてくることがあるのですが、そんな瞬間もとても楽しいものです。
実験を進める上で、ある程度の目論見はありますが、その通りにいっても、面白味はあまり感じられません。私たちが相手にしているのは自然現象ですので、人間の考えが及ばないのは、ある意味当然のこと。だからこそ、偶然性や予想外ということが重要になるのでしょう。