2021/06/17
【工学部】豊かな生活を支える“縁の下の力持ち”――触媒の新たな可能性を追究
工学部 応用化学科/荻原研究室
2021/06/17
工学部 応用化学科/荻原研究室
今回は、工学部応用化学科「黒川・荻原研究室」の荻原仁志准教授の研究を紹介。省エネルギーや資源有効利用など、持続可能な社会の構築を目指して取り組む触媒の研究とは、一体どのようなものなのでしょうか?
私たちの研究室の専門は「触媒化学」という化学の一分野で、触媒に関する研究を行っています。
触媒というのは、化学反応を促進させる物質。あまり目立つ存在ではないかもしれませんが、実は私たちの身の回りの様々なところで使用されています。
例えば、生活に欠かせないプラスチック製品は、石油から作られますが、その工程には触媒が必要不可欠。複雑な構造をした化合物である石油を分解、精製して、プラスチック製品などを作る工程で触媒が使われているのです。その他、ガソリンの精製など、様々なシーンで触媒が利用されています。
つまり、石油だけあっても、私たちの暮らしに役立つものは作れないということ。触媒があって初めて役に立つものに変換できるのです。
そんな触媒について、私たちの研究室で注力しているのが、石油の代わりに天然ガスを活用するための触媒の研究。昨今、環境に優しい社会の実現が求められています。また、枯渇が心配される石油に依存しない社会の確立も解決すべき課題。この研究の成果は、これらの課題に対する解決策につながることが期待できるものです。
現在、天然ガスはほとんど燃料として使われるだけで、資源として有効に使われているとはいえません。石油のようにプラスチックや医薬品などに転換されていないからです。私たちの研究では、そんな天然ガスをプラスチックの原料となる化合物――エチレンとかベンゼンなどに変換させる触媒を作ろうとしています。
研究では触媒の合成も行いますが、その際に求められるのがナノテクノロジーの活用。なぜなら、化学反応とは分子が変化することですが、その分子の大きさがnm(ナノメートル)より小さいから――。触媒が分子を効率よくキャッチして活性化させるには、ナノテクノロジーを駆使した材料合成が必要不可欠です。
また、天然ガスを石油の代替として活用するための触媒の研究と並行して進めているのが、電力を使った化学反応の研究です。
化学工業の製造工程では、材料となる物質を次の物質に転換する際、熱エネルギーを使って化学反応を起こしています。その際に必要な熱エネルギーは化石資源を燃やして作っていますが、これも脱炭素社会を実現する観点でいうと好ましくありません。
そこで、熱ではなく電力をエネルギーに使って化学反応を起こす触媒の開発や装置・プロセスの設計など、総合的な研究を進めています。
触媒化学の面白さは、誰も見たことのない化学反応を目の当たりにできるところに尽きるでしょうか? ナノテクノロジーを使って新たな触媒を作ったり、既存の触媒の未知の化学反応を発見したり、自分の工夫やアイデアで新たな現象を見出した時の喜びはやはり大きいですね。
一方、初めにどのようなテーマを設定するかは、いつも頭を悩ませるところです。あまりにも実現が難しそうなテーマに絞っても、成果につながらなければ意味がありません。かといって、ありきたりなテーマを設定しても、興味がそそられません。
結局、研究はスタートが悪ければどんなに苦労しても、面白い結果につながらないと考えています。ですので、人とは少し違う視点をもちながら、楽しみながら研究を続けられるようなテーマを選ぶことを大切にしています。
恐らく、私たちの研究成果は、すぐに社会実装できるものではありません。ただ、社会が直面する課題解決に何かしらのインパクトを与えることは確か。ですので、これまでなかったような化学反応や概念をうまく提案して、将来、世の中の役に立てばよいと考えながら、研究に勤しんでいます。