2026/08/21
【理学部】キャッチしたX線から宇宙の謎を解明
理学部 物理学科/田代研究室
2026/08/21
理学部 物理学科/田代研究室
2024年、宇宙科学の世界に衝撃が走りました。日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)主導で開発された人工衛星「XRISM(クリズム)」によって、「銀河団(たくさんの銀河が集まった巨大な天体)」の謎に迫る成果が得られたと発表されたのです。埼玉大学理学部の田代信教授は、そんなプロジェクトのリーダーを務めた人物。日米欧200人規模のチームを率い、これまでの常識を打ち破るほどの高精度の天体観測を実現した田代教授に、研究の意義と醍醐味、そして研究室の魅力を語っていただきました。
宇宙の観測というと、望遠鏡で星を見るイメージがあるかもしれません。でも、この研究室では「X線」を使って、“目に見えない宇宙の姿”をとらえようとしています。
X線は、私たちの目には見えない光で、普通の光よりもエネルギーが高く、熱い場所からしか発せられないのが特徴。例えば、ブラックホールのような超高温の天体から発せられています。つまり、X線を観測すれば「宇宙で起こっている激しい現象」を知ることができるのです。

現在、注目しているのは「銀河団」という天体です。これは、何十、何百、何千もの銀河が集まった非常に大きな天体で、その内部の高温ガスがX線を出しています。そのX線をくわしく調べることで、銀河団がどうやってできたのか、どんなしくみで動いているのかを解き明かそうとしているのです。
ただし、X線は地球の空気を通り抜けることができません。そこで、観測は宇宙で行います。そのために使われているのが、2023年に打ち上げた人工衛星「XRISM(クリズム)」です。
この衛星には、「X線マイクロカロリメーター」という特別な装置が搭載されています。この装置は、X線が当たったときに起きるほんのわずかな温度の変化を測ることができます。
その精度はとても高く、X線を出している物質のこれまで見えなかった細かい情報まで読み取れるようになっています。たとえば、ガスの動きや、どんな元素が含まれているかもわかるようになりました。
研究の一番の面白さは、「世界で初めて、誰も見たことのない現象を見つけられること」です。
2024年、クリズムのデータを分析する中で、銀河団の中のガスが、まるで風のように揺れていることがわかりました。この発見は科学雑誌「Nature」に掲載され、世界的にも注目されました。

この成果は、銀河団がなぜ現在の姿を保っているかという長年の謎への、新たな手がかりになると考えています。こうした現象は、これまでの測定精度ではわからなかったことなのです。
誰も見たことのない現象に向き合うからこその怖さもあります。自分の思い込みでデータを解釈してしまえば、間違った結論を永遠に残してしまいかねないからです。だからこそ、先入観を排除して、「本当にそう言えるのか?」と何度も考えながら、データを真摯に受け止める姿勢を大切にしています。
なお、銀河団には「ダークマター」と呼ばれる、まだ正体がわからない物質が関わっていると考えられています。この物質は光を出さないため、直接見ることはできません。しかし、X線を手がかりにすることで、その存在や分布を間接的に調べることができます。
ダークマターの分布や影響を明らかにし、銀河団の成り立ちを理解することは、宇宙がどのように進化してきたのかを考える上で重要な手がかりになります。
最終的には、宇宙の誕生と進化のしくみを明らかにしたい――そのような思いを胸に、今日も観測データの分析に取り組んでいます。
