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2022/05/27

【教養学部】民主主義のもとでのみ、開発途上国の経済発展はなしえる――という考え方は本当か?

教養学部 グローバル・ガバナンス専修課程/近藤研究室

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  • 【教養学部】民主主義のもとでのみ、開発途上国の経済発展はなしえる――という考え方は本当か?

「民主化をしないと開発途上国の経済成長は望めない」と言われる一方、実際にはそのような考えに当てはまらない国もある――そのような視点で開発途上国の政治経済について研究を続ける教養学部 近藤久洋教授に研究の内容や意義について話を伺いました。

中国、韓国、台湾など――、必ずしも民主主義下で経済発展したとは限らない

専門分野は開発途上国の貧困問題や開発問題を分析し、どうすれば開発途上国の成長を促せるかを研究する「国際開発学」。その中でも、政治が開発にどう影響し、どのような政治が経済発展を促すことができるかということにフォーカスした「開発政治学」をメインに研究を進めています。

近年、先進国の間では「民主化をしないと開発途上国の成長は実現できない」という共通認識が定着してきました。しかし、そのような認識とは異なるプロセスで経済発展した国があるのも事実。例えば、中国は自由民主主義ではありませんし、かつての韓国や台湾は、軍事政権や権威主義の元で発展を遂げてきました。

そこで、民主主義あるいは非民主主義といった統治体制よりも、どのような政治的な条件を満たしているかが、経済発展には重要だと考え、その関係性を理解するための調査や分析を行っているのです。

例えば、官僚機構が強固な国は、政治体制に関わらず政策形成の能力が高いもの。中国がその典型です。しかし、いくら優れた政策があっても、それだけでは経済発展は望めません。最終的には、民間企業、ひいては市民社会の活力をいかに政府の政策が取り込むかが重要になってきます。そして、そのような条件を満たしているかどうかは、必ずしも政治体制によって決定される話ではありません。

「民主化しなければ経済発展は望めない」という見解は、規範論(あるべき社会や政治の姿を前提として理想を説く考え方)に基づくものです。その点、私はもう少し柔軟な考え方で、事例からアプローチするスタンスで研究に臨んでいます。

現在注力しているのは、近年、著しい経済成長を遂げているカンボジアとルワンダなど、東南アジアやアフリカの国々を対象にした研究です。さらに、韓国や台湾などの新興国が、開発途上国への援助を行うケースが増えていますが、そのような国々がどのような目的で、どのような援助を行っているかについても併せて研究を進めています。

現実的な視点をもって現地調査に臨むのが基本姿勢

具体的には、経済発展に至るまでの経緯を歴史的な観点から見たり、他国と比較を行ったりと、様々な観点から分析していきますが、特に重視しているのが現地調査を行うこと。

もちろん現地調査をしなくても、文献や各種資料を読めば分かることはあります。しかし、自分の目で確かめなければ見えないことがあるのも事実です。

私たちの研究では、各国政府が公表している報告書が重要な資料になりますが、当然、そこに書かれてない事実もありますし、そもそも報告書自体の信憑性が判断できないケースもある。そこで、現地のメディアやNGOのスタッフ、あるいは一般の市民に話を聞くことで、報告書やその他の資料の内容が正しいのかについて、裏をとっていきます。

例えば、農村に行って、各家庭の台所の様子を見れば、生活水準がある程度わかります。そのような調査から、「いくら政府が『開発はうまくいってる』と言っていても、実際はどうなのか?」ということが判断できる訳です。

一理あると思われる政策提言で開発途上国の発展に貢献

元々、私は市役所の職員として働いていましたが、ある時、専門的な知識が求められる仕事がしたいと考え、海外の大学院に留学したことが、研究者の道に進むきっかけになりました。

大学時代の専門がアフリカの地域研究だったこともあって、留学先ではアフリカの国際開発を専攻。はじめはNGOで専門家として働くことを考えていましたが、当時の指導教官に「世界には独裁政権でうまくいった国がある一方で、同じく独裁政権でうまくいっていない国もある。それはなぜか?」と聞かれたことが、人生のターニングポイントになりました。なぜなら、この質問に対する答えを探すべく、情報を集めている内にこのテーマで考察することが面白くなってしまい、いつの間にか研究者の道に進んでいたからです。

改めて振り返ると、地方行政の側から市民を見てきたという経験が、現地調査を重視する研究スタイルになったことに関係しているかもしれないですね。

これまで、国際協力機構(JICA)の研究協力者として、調査の実施や提言などを行ってきましたが、最終的には、政策提言などを通じて、開発途上国の経済成長に何らかの示唆を与えていきたいですね。いずれにせよ、やるべきことはたくさんあるので、一つひとつ研究の成果を積み重ねていきたいと考えています。

近藤教授より受験生へMessage

ゼミの学生を引率して、海外への現地調査を実施する意図とは?

 コロナ前、私のゼミでは、学生と合同で毎年現地調査に出向いていました。現地では、日本にいるとなかなか味わえないような貴重な体験ができるのが魅力の1つです。
 学生には、調査準備や現地での会合の進行など、様々なことを担当してもらいます。そのため、英語でのコミュニケーションも含め、相当高いレベルの現地調査能力が身につくでしょう。
 2021年度は、コロナ禍の影響で現地に行くことはできませんでした。それでもオンラインで現地の方にヒアリングを実施。その準備や進行を行った学生たちにとっては、よい機会になったのは間違いありません。
 いずれにせよ、同じ時代に生きていても、生まれた場所が異なるだけで、全く違う生活を送っているという現実に触れることで得られるものはとても多いと思います。
 ディスカッションを中心とした通常のゼミでも、現地調査の企画・準備でも、私はあまり口を出さないように心がけています。学生は、そのような環境で自主性を養い、将来、仕事を自律的にやり遂げたり、新しい分野を開拓できるような人材として活躍して欲しいですね。

負担がある分、学生の成長の伸び代が大きいのが教養学部の魅力

 ロシアとウクライナの問題や新興国の台頭などに見られるように、最近では欧米を中心とした伝統的な国際秩序が変容しつつあります。その中で、教養学部のグローバル・ガバナンス専修で、国際社会が抱えている大きな問題について、学び、理解することは非常に意義深いことです。
 これまで様々な大学で教鞭をとってきましたが、埼玉大学の教養学部は、しっかりと学生が勉強するための環境が整っていると思います。学生が少人数であることで、教員が細かいところまでフォローできるのはもちろん、学びのレベルが高いことや課題の量も多いことで、かなりの成長が期待できるでしょう。
 研究者として、埼玉大学に対して魅力に感じるのは、研究に対して自由な雰囲気があるところ。現地調査を行うにしても、間接的にサポートしてもらっている印象です。そのような雰囲気の中で研究できることは、研究者としてのモチベーションにもつながっているのは間違いありません。

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