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2026/02/19

私が68歳で大学院に入学した理由

2025年度大学院修了生にインタビュー

Profile

仲 三枝子さん

2025年9月 人文社会科学研究科博士後期課程 修了

76歳にして本学大学院 人文社会科学研究科の博士後期課程を修了し、博士号を取得した仲三枝子さん。広告代理店での定年を間近に控えるなか、若い頃に叶えられなかった「学びたい」という思いを胸に大学へ入学し、その後も大学院で研究に打ち込んだ経歴の持ち主です。今回は、仲さんに研究テーマとの出会いや埼玉大学で得たものについて伺いました。

定年を機に始まった研究の道

――大学院時代に取り組んできた研究テーマについて教えてください。

仲さん 「朝顔に つるべ取られて もらい水」という句が有名な、江戸中期の女流俳人、加賀千代女(かがのちよじょ)が、近世期の国内および近代初期の海外において、人々にどのように受容されていたかというテーマと、千代女が1764年に来聘した朝鮮通信使へ、加賀藩の藩命により俳句を献上したという所伝は、史実であるという証明をするための研究をしてきました。

――大学院に入られたのは68歳のときだそうですね。

仲さん はい。その前は会社勤めをしながら、慶應義塾大学の通信教育課程で歴史学を学んでいました。卒業論文を書くにあたって、千代女が朝鮮通信使に献上句を送ったという所伝に出会い、卒論のテーマにしました。もっと深く調べたいと思ったのが、大学院に進んだきっかけです。研究を深めるには日韓双方の資料を読み解く必要があったため、日本アジア文化専攻が設けられていた埼玉大学大学院を選びました。

――仕事をしながら大学で学ぶことを決意した背景には、どんな思いがあったのでしょうか。

仲さん 若い頃、父が病に倒れて、大学進学を断念したことが大きいですね。高校卒業後は、広告代理店で働いてきましたが、定年を目前にして「やっぱり大学で学びたい」という思いが再燃したのです。また、30代の頃に韓国語を学んだ経験もあり、日韓の文化交流の歴史をもっと理解したいという気持ちが強くなり、大学入学を決めました。

――学び続ける上で大変だったことは何ですか。

仲さん 姉を介護していたので、時間を確保するのがとても大変でしたね。とにかく時間がないので、電車の中や日々の買物のレジを待っている間など、ちょっとした時間を見つけては、研究書を読んでいました。研究書は厚くて重いので、持ち歩くのはすこし大変でしたけど(笑)。

――ご家族の支えも大きかったのでは。

仲さん 夫がとても協力的で、論文を書く際には、家事の多くを担ってくれました。あと、私に直接言うことはありませんでしたが、姉も「うちの妹は大学院で勉強しているのよ」と友人に嬉しそうに話していたようで、応援してくれていたのだと思います。

――博士課程を修了し、博士号を取得されたお気持ちは。

仲さん 達成感よりも「研究に携わる者として自分はまだまだ未熟だな」と感じています。研究に関する課題はたくさんありますので、研究はこれからも続けていく考えです。論文を本として出版することが次の目標ですね。

学び続けることで、世界が広がる

――埼玉大学での研究環境はいかがでしたか。

仲さん 本当に恵まれていました。まず、先生方がとても親身なのです。とても丁寧に指導していただきました。また、私のように介護を抱える学生に対しても、大学は柔軟に対応してくれました。育児や介護などの事情があれば、通常3年の博士後期課程を最長6年(通常2年の博士前期課程を最長4年)まで延ばせる「長期履修制度」を利用しましたが、この制度があったからこそ、家庭と研究を両立することができたと思います。職員の方々もとても親切で、手続きや制度の相談にのってくださり、とても心強かったです。

――年齢に関係なく学び続けることの意義を、どのように感じていますか。

仲さん 年齢を重ねると、新たな挑戦に一歩踏み出すことをためらいがちです。しかし、最高峰の知を探究する大学院という環境に身を置くと、自然と前向きな気持ちが湧いてくるものです。若い学生と一緒に学ぶことで刺激を受け、視野も広がりました。研究を通して、社会や歴史の見方も変わりましたし、何より「自分はまだ成長できる」と実感できたことは大きな収穫です。会社員として定年まで勤めあげましたが、研究を始めてからは仕事とは違う“もう1つの人生”がひらけたように感じています。

――埼玉大学大学院の魅力はどんなところでしょうか。

仲さん 繰り返しになりますが、先生方が本当に素晴らしいです。権威的なところはなく、研究者として私たち学生にも対等に接してくださいます。指導教員だったビュールク・トーヴェ先生は、私が年齢を理由にして弱音をはくたびに「研究に年齢は関係ありません」と戒めの言葉をかけながらも、常に温かく励ましてくださいました。周りの学生も、フレンドリーで、年齢差を感じることはありませんでした。おかげで博士前期課程と休学も含めた9年間の大学院生活は楽しく、あっという間に過ぎていきました。

――最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

仲さん 世界には、戦争や政情不安、健康、経済的な理由などで学びたくても学べない若い人がたくさんいます。だからこそ、日本の若い人には、学べる環境があることを当たり前と思わず、主体的に学ぶ意欲をもち続けてほしいですね。そして、社会人やシニア世代の方には、学び直しに年齢は関係ないということを伝えたいです。夢をもち続ける限り、人生はいつでも青春ですから。

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