2024/11/28
【理学部】性の多様性を脳科学の視点から理解し、より豊かな社会の構築を目指す
理学部 生体制御学科/塚原研究室
2024/11/28
理学部 生体制御学科/塚原研究室
「行動や感性が性別によって大きく異なるのは、脳の働きが男女間で異なるためです」
こう話すのは、本学理学部 生体制御学科の塚原伸治教授。塚原教授は、性別による脳の違いが、人や動物の行動や感性にどのように影響を与えるのかを研究しています。性の多様性を生み出すメカニズムの解明も期待できるという研究内容について、話を聞きました。
身体的な特徴が男女間で異なるのは言うまでもありませんが、性別によって脳に違いがあることを皆さんはご存知でしょうか?
例えば、一般的に男性よりも女性の方がおしとやかで、男性の方が攻撃的なイメージがありますが、このような感性や行動の差は、脳の働きに性別による違い(性差)があるからだと考えられています。生殖のための性行動や子を育てる養育行動なども同様。脳の働きの違いによって性差が生まれるのです。
私たちの研究室では、性を生み出す脳のメカニズムの解明に取り組んでいます。
男女の脳で異なるのは、神経核と呼ばれる神経細胞(ニューロン)が多く集まる部分。この部分の神経細胞の数は、男性の方が多くなっていたり、反対に女性の方が多くなっていたりすることが分かっています。神経細胞の数の違いが感性や行動の差を生み出しているわけです。
これは人間に限ったことではなく、他の哺乳類も同様。そこで主にマウスを用いて、オスとメスの脳の違いを調べています。
なお、脳内の神経細胞の数は、男性ホルモンと女性ホルモンの分泌量が影響を及ぼします。そこでホルモン量を調整することで、神経細胞の数をコントロールし、マウスの行動がどう変化するのかを観察するのです。
研究では、マウスを用いていますが、人間の脳における男女差の理解を目指して取り組みを進めています。
身体だけでなく、脳も男女で異なる部分があることはお判りいただけたと思います。では、もし身体的な特徴が男性な人の脳が、女性に多く見られる特徴をもっていたら、どうなるでしょうか?
「身体的な性と性自認が異なるトランスジェンダーになる可能性が高い」というのがその答え。そして、このようなことが起こるのは、不自然なことではないのです。
脳の性差は、心の性にも影響するものです。実際に世の中には、様々なセクシュアリティをもつ人が存在します。「XY」のペアで男性に、「XX」で女性になるように、遺伝子によって性別が決まることはよく知られていますが、このことだけで性の多様性を説明することは困難です。
その点、私たちの研究が実を結べば、性の多様性を科学的に理解することができるでしょう。もしも、身体的性と性自認が異なることや、性的指向が同性に向くことが、脳の働きによるもので、科学的に明らかになれば、これまで「一般的には理解し難いから」という理由で性的マイノリティの人たちが受けてきた、いわれなき差別をなくせると思います。
さらに、性的マイノリティの人は、生物の進化において、非常に重要な役割を果たす存在なのではないかと考えています。
現在、マウスの他に鳥類の脳の性差についても研究を進めています。爬虫類から鳥類あるいは哺乳類へと至る生物の進化の過程で、脳の性差がどのように変化したかが理解できるからです。
私は進化の過程で性の多様化が生まれるのは意味があることだとにらんでいます。実は、哺乳類に起こり得る性の多様化は、鳥類には起こりにくい。そして、それが人類にまで残っている。この事実は、性のバリエーションが生物の進化には必要不可欠なことを物語っているような気がしてなりません。研究により、この考えが正しいことを生命科学の視点から証明したいのです。
また、病気には、男性がかかりやすいものと女性がかかりやすいものがあります。例えば、拒食症にかかるのは思春期の女性が多く、自閉症にかかるのは男性が多い。脳の性差を切り口に、このような病気と性別の関係が理解できれば、性別ごとに最適化した病気の予防法や治療法の確立につなげることも可能です。
現在、取り組みを進めている哺乳類と鳥類の研究はもちろん、生物の進化と脳の性差の関係を理解するために、爬虫類などにも研究対象を広げていきたいと考えています。いずれにせよ、研究で明らかにすべきことは数限りありませんね。