2026/04/13
【教育学部】教育とアートの境界を超えて
教育学部 芸術専修 図画工作・美術分野/平野研究室
2026/04/13
教育学部 芸術専修 図画工作・美術分野/平野研究室
美術作家として活躍しながら、理想的な図工・美術教育のあり方を過去の歴史から研究する本学教育学部の平野英史准教授。表現者と研究者という2つの顔を持つ平野准教授に、制作や研究の意義や研究室の魅力について語っていただきました。
私は作家として作品制作をする一方で、美術教育のあり方を研究しています。作品の多くは、鉄や銅などの金属板を金槌で叩いて成形する「鍛金」という伝統技法を用いて制作していますので、直接的に小学校の図画工作や中学校の美術の授業とは関係が無いよう見えると思います。しかしながら、特殊で高度な伝統工芸だからこそ図工・美術の教員を目指す学生には経験してほしいと考えています。

「鍛金」を経験してほしい理由は、二つあります。第一は、未知の美術を経験するということを思い出すからです。図工や美術の教師を志す人の多くは、美術好きが高じて沢山の経験を積んでいるため、未経験者の気持ちを忘れてしまっています。初心に立ち返ることで、上手くいかないことや新しい発見など様々な状況に触れ、子どもや生徒が美術に遭遇する瞬間を見取れるような教師になってほしいです。
第二は、表現における技術について考えてほしいからです。図工や美術の授業では、表現を重視するあまり技術を後回しにすることがあります。しかし、場合によっては技術を持っている方が、より表現が自由になることもあると思います。特に、高度な工芸技術による「鍛金」の制作活動では、素材を変形させるにも、表面に模様をつけるにも、金槌で叩くことだけが唯一の方法ですので、様々な叩く技術を使い分ける能力が必要となります。この技術を使い分ける能力「技能」が養われる経験が大切なのです。

学生時代から、ライフワークとして続けている研究に、図工や美術教育に大きな影響を与えた「阿部七五三吉」という人物の研究があります。阿部は、明治時代から昭和初期までに多くの研究業績を残しながら、実践家や研究者を多く育てました。その阿部による図工・美術のコンセプトは「模倣を基礎とする創作」であり、技術の教育を起点とした表現活動を重視しました。創作を進める前に、技術の練習を行うように授業を計画していました。
阿部が、明治後期から昭和初期に実践・研究した小学校五年生の図工では、私が制作活動で専門としている「鍛金」の授業が行われていました。具体的には、金属の板を叩いてスプーンをつくる内容でしたが、現代では安全面や難易度などの理由から姿を消しています。当時は、危険を伴う制作活動だからこそ、道具の正しい使い方や危険回避の方法を真剣に指導していました。そのために、覚えなければいけない技術や知識はとても多くなっていましたが、こうした真剣さや大変さの中に、表現の大切な部分が隠されていると思うのです。

このように過去の教育実践から得られる知見を現代の教育プログラムにどう活かすべきかを考えることが、研究目的となっています。また、過去の授業で行われていた制作活動を、埼玉大学の学生たちと一緒に体験し、実際に学生が感動したり驚いたりする様子に立ち会うことは、研究の大切な気づきにつながります。さらに、今後は図工や美術の教科書編さんに携わる予定ですので、これまでの活動で得た経験を教育現場に還元していきたいと考えています。
