2025/06/26
【経済学部】統計データから社会保障制度のあるべき姿を探る
経済学部 メジャー:国際ビジネスと社会発展 大津研究室
2025/06/26
経済学部 メジャー:国際ビジネスと社会発展 大津研究室
医療保険や年金をはじめとする日本の社会保障制度は、様々な課題に直面しています。そんな中、本学 経済学部の大津 唯 准教授は、誰もが安心して暮らせる社会の基盤となる社会保障制度を実現させるための研究に取り組んでいます。
日本には、すべての国民が公的医療保険に加入する「国民皆保険」という仕組みがあります。そのおかげで、私たちが医療機関で治療を受けたときに支払う料金は、実際にかかった医療費の一部で済んでいます。残りの費用は税金や保険料によってまかなわれるため、誰もが質の高い医療を安く受けられるようになっているのです。
そんな日本の公的医療保険制度ですが、近年は財政状況が極めて厳しくなっています。高齢化による医療ニーズの増加や、医療技術の進歩に伴う治療費の高額化により、国民全体の医療費が増え続けているからです。
医療費が増えると、それに伴って保険料が引き上げられることになります。 その結果、収入が少ない人は、保険料を支払うことが難しくなります。保険料を滞納すると、治療を受けた際の医療費をすべて自分で負担しなければならない場合もあります。
そこで私は、公的な統計データを利用して、こうしたことが実際にどのくらい起きているのかを明らかにする研究に取り組んできました。
研究を通して、収入が少ない人ほど保険料を払えず、医療費をすべて自分で負担しなければならない状況になっていること、そしてそのために病院に行けていないという実態が明らかになってきました。
私の専門は「社会保障論」です。統計データを使って、日本における経済的な格差や貧困の現状、そして社会保障制度の問題点を分析する点が、私の研究の特徴です。
社会保障制度には、医療保険だけでなく、年金や生活保護などもあり、これらの制度の現状や課題についても、分析を行っています。
特に最近力を入れているのが、生活保護制度に関する研究です。生活保護に対しては、ネガティヴなイメージを持っている人も少なくないと思います。ですが、そのような見方にきちんとした根拠がある訳ではありません。
そこで、統計データを使って生活保護の実態を明らかにするための研究を進めています。これまでの分析で、生活保護の受給者の半数が高齢者であることや、現役世代の受給者の大半は障害や傷病を抱えた人であることなどが分かってきました。
さらに、貧困の測定方法に関する研究にも取り組んでいます。
その1つが「剥奪指標」を使った貧困の測定です。この指標は、収入だけで貧困は測れないという考えに基づくもので、例えば、「スマートフォンを所有しているか」 「病気になった際に医療機関にかかることができるか」など、具体的な生活状況から貧困のレベルを測定するものです。
「剥奪指標」は、国際機関やヨーロッパの国々で盛んに利用されていますが、日本ではあまり使われていません。そのような状況を変えて、日本の格差社会や真の貧困の姿を明らかにしたいと考えています。
私が学生だったころは、長引く不況の中で格差や貧困が拡大し、それが社会的に問題視され始めた時期でした。「なんとかこの問題を解決したい」という強い思いが、この研究に進むきっかけになりました。
研究の成果が、誰もが安心して暮らせる社会をつくるための政策やルールづくりにつながることを目指して、研究に取り組んでいます。ただ、「社会保障論」の分野では、統計データを活かして研究している人が少ないので、まだ取り組まれていないテーマがたくさんあります。だからこそ、これからも地道に研究を進めていきたいですね。