2020/12/21
【教養学部】二代目市川團十郎の日記から江戸社会の様々な側面を紐解く
教養学部 日本・アジア文化専修課程/ビュールク研究室
2020/12/21
教養学部 日本・アジア文化専修課程/ビュールク研究室
専門である日本の近世文学の中で、歌舞伎に焦点を当てた研究に取り組んでいます。
現在、注力しているのは享保期の歌舞伎役者、二代目市川團十郎の日記をスコープに当時の歌舞伎の姿や社会との関わりを解き明かす研究。
例えば、当時、歌舞伎が上演されていた芝居小屋は、どのような身分の人でも入場できる自由空間でした。つまり、身分制度が厳格な江戸時代に、同じ劇場で大名の奥方と商人の娘が同じ作品を見ていた訳です。そして、同じ作品を楽しめたということは、観客同士はもちろん、観客と芝居の制作者も教養を共有する部分があったことを示唆しています。
私の研究では、二代目市川團十郎の日記をはじめ、その他の膨大な文献を紐解いていくことで、そのような事実を明らかにしていくのです。
その他、芝居小屋周辺には、芝居茶屋や土産屋など、観客目当ての店が軒を連ねる商業圏が形成されていましたが、そのような歌舞伎と経済の関係や、現在の日本の芸能界にも通じる当時のビジネスモデルなども研究対象。
つまり、私が取り組んでいる研究は、歌舞伎の文学や演劇としての側面だけでなく、歴史や芸能史などといった領域にも及ぶのです。
この研究を始めたのは、来日後に進学した大学院の指導教官に「二代目市川團十郎の日記の研究をしてみたら?」と勧められたことがきっかけです。はじめは書かれている文章を読むことも難しかったのですが、読めるようになってくると内容が面白く、のめり込んでいきました。
また二代目市川團十郎という人物も非常に魅力的な人物。絶大な人気を博した彼は、真面目で働き者な面がある一方で、どこか抜けているというか、人間味にあふれていて、憎めないところがあるのです。
この研究で、自分以外の人生を開けることにもやりがいを感じています。例えば、いまから300年以上前に亡くなった、名前を誰にも知られていないような芝居茶屋の亭主の暮らしや思いを明らかにすることで、その人生を蘇らせることができるのです。
今後は、東洋における商業演劇の比較に取り組んでいきたいと考えています。明治以降、西洋の商業演劇と比較する研究は盛んに行われてきましたが、これまであまり行われていなかったこの研究によって、例えば中国の商業演劇と歌舞伎の関係性を見出したいですね。
▲二代目市川團十郎の日記の写本の複製と彼を描いた浮世絵。文献だけではなく、浮世絵も重要な研究資料として使われる。右下にあるのはビュールク准教授の著書『二代目市川團十郎の日記にみる享保期江戸歌舞伎』
過去に生きた人たちの考え方や価値観は、我々とは全く異なることもありますし、共通する部分もある。古典の研究を通じて、そのような事実に触れることで気付けることはたくさんあります。
例えば、現在、ジェンダーに関する議論が活発に行われていますが、日本の近世期では、性別よりも身分による区別の方が厳格でした。古典を読んで、そのような社会で暮らす疑似体験をすることで新たな世界観――パラダイムを手に入れられる。言ってみれば自分の知らない世界へ冒険ができるということですね。