2024/06/14
【理学部】夢の技術につながる超伝導理論の構築に挑む!
理学部物理学科/星野研究室
2024/06/14
理学部物理学科/星野研究室
ある条件下で物質の電気抵抗がゼロになるという超伝導。現在発見されている超伝導物質は、低温状態で超伝導を起こしますが、もし同じ現象を常温・常圧で発生させたり、超伝導ならではの新機能を開発できれば、様々なメリットがあるといわれています。本学物理学科の星野晋太郎助教は、そんな夢の技術につながる研究に取り組む研究者の1人。超伝導体中のの電子の振る舞いを把握しようという研究の内容について語っていただきました。
物理学という研究分野は、大まかにいうと実験物理学と理論物理学から成り立っています。簡単にいえば、実験物理学は自然現象を観察・測定するもので、理論物理学は実験で明らかになった現象を説明する理論を構築するものです。物理学において、実験物理学と理論物理学は、例えるなら車の両輪のような関係にあり、どちらか一方が欠けても研究は成立しませんが、現代では実験物理学と理論物理学はそれぞれ専門の研究者が行うことが多くなっています。
私が専門としているのは理論物理学ですが、その中でも物質の振る舞いを量子力学の原理から理論的に明らかにする物性理論という研究に取り組んでいます。
これまで注力してきたのは、超伝導の研究です。超伝導とは、電気伝導性物質(金属)が低温度下(編注:現在-138℃で超伝導になる物質があることが分かっています)で、電気抵抗がゼロになる現象のこと。この現象は1911年に発見され、1957年に発表された「Bardeen-Cooper-Schriefferの理論(BCS理論)」によって、そのメカニズムが明らかになりました。しかし、1980年代になって新たに見つかった高温超伝導という現象は、この理論では説明できないものでした。「BCS理論」によって説明できる超伝導は-243℃を超えない低温下で起こるものがほとんどでしたが、高温超伝導は、液体窒素で冷やすことができる-196℃以上という、それよりはるかに高温で起こるものだったからです。
それ故、長年にわたって、高温超伝導を説明するための新たな理論の構築が求められてきましたが、未だ予言能力のある理論構築は実現していません。そして私が取り組むのも、このテーマなのです。
では、新たな理論によって、超伝導のメカニズムが明らかになると、どのようなことが実現できるのでしょうか?
例えば、理論的に新物質を予言することによって、現状で-138℃以下という低温でなければ発生しない超伝導が常温で起こせるようになることが考えられます。
先にお話しした通り、超伝導では電気抵抗がなくなるので、もしそれが実現できれば、どんなに長い距離でもロスなく送電できる仕組みが構築できるかもしれません。
現在、火力発電を行うのに輸入した燃料を燃やして発電していますが、コストをかけて石油を運ばずとも、産油国で発電した電気が世界各国に送れるようになります。再生可能エネルギーとして注目される太陽光発電や風力発電、地熱発電を行うにしても、最も効率よく発電できる地域からロスなく全世界に送電できるでしょう。
また、最近では、とあるクラスの超伝導体の性質を利用した次世代型の量子コンピュータの開発が期待されています。超伝導のメカニズムを明らかにすることは、このような夢のような技術の実現につながるのです。
理論物理学は、数学的手法や既存の物理理論を組み合わせて新たな理論を構築していきます。
研究では、たくさんの数式を扱うので、数学との違いを聞かれることがしばしばあります。理論物理学は精密であることに間違いはないのですが、数学と比べると厳密さをそれほど気にしないところがあります。それは、予言された物理現象は実験によって検証でき、自然が正しさを保証してくれるからです。
言いかえると、数学が一歩一歩ゴールに向かって着実に歩を進めていくイメージだとするならば、理論物理学の場合は発想を飛躍させる自由がある。電車とか飛行機を使って一気にゴールに近づけるようなところがあるのが、楽しい点でもあります。
さて、読者の皆さんは、20世紀に活躍した岡本太郎という人物をご存知でしょうか? 私が尊敬する芸術家の1人ですが、彼は著書の中で「芸術は、つねに新しく創造されねばならない。けっして模倣であってはならないことは言うまでもありません」(岡本太郎『今日の芸術』光文社刊)という言葉を残しています。最近、この考え方は研究姿勢にも当てはまると強く感じています。研究者として活動するなら、たとえ孤独と批判にさらされたとしても先進的な取り組みを続けることがイノベーションにつながるはず――そんな思いを胸に日々の研究に取り組んでいます。