2025/08/27
【理学部】遺伝子の見守り役“マイクロRNA”の謎に迫る!
理学部 分子生物学科 高橋研究室
2025/08/27
理学部 分子生物学科 高橋研究室
私たちの細胞の中にある小さな分子“マイクロRNA”。2024年のノーベル賞でも注目された、この分子と、がんや感染症といった病気との関係が最近の研究で次々と明らかになっています。本学理学部の高橋朋子准教授も、そんな研究に取り組む研究者の1人。小さな分子に秘められた大きな可能性、そしてそれが未来の医療をどう変えるのか。研究の最前線をのぞいてみましょう。
私たち人間の身体は、様々な働きをもつ細胞の集合体です。たとえば、脳や肺、皮膚などの器官もすべて細胞からできていますが、それぞれ異なる役割があります。
その違いを生み出すのが、DNAの一部に書かれた遺伝子の情報。DNAは細胞の中に存在しますが、そこに「この細胞はどんな仕事をするのか」という遺伝子の情報が記載されています。そして、遺伝子の情報は、RNAという分子にコピーされ(これを「転写」といいます)、それをもとに身体の構成要素となるタンパク質がつくられます。この一連の流れを、遺伝子発現といい、生物の身体がつくられる基本のしくみになっています。
私が研究しているのは、遺伝子発現のプロセスにおけるRNAの役割。実は、RNAには、タンパク質をつくるもの(“メッセンジャーRNA”と呼ばれます)だけでなく、“ノンコーディングRNA”と呼ばれる、タンパク質をつくらないRNAも存在します。
かつては、タンパク質をつくらない“ノンコーディングRNA”は、遺伝子発現において、特に役割がないと考えられてきました。でも最近の研究で、とても重要な役割を果たすことが明らかになりました。遺伝子の働きを制御しているのです。
“ノンコーディングRNA”にも種類があり、私の研究では“microRNA(マイクロRNA)”というとても小さなRNAに注目してきました。この“マイクロRNA”が細胞の中でどのように働いているのか、そのメカニズムを明らかにしようとしています。
たとえばインフルエンザや新型コロナウイルスにかかっても症状が重くなる人もいれば、軽く済む人もいます。なぜ、そのような違いが生じるのか? 実はそこにも遺伝子の働きが関わっており、“マイクロRNA”もそれらに深く関係していると考えられています。
こうした違いの理由がわかれば、新しい薬の開発や治療法の発見につながるはずです。
また、現在、人工的につくったDNAやRNAを薬として使う「核酸医薬」が注目されています。これは、病気の原因となる遺伝子に直接働きかける新しいタイプの医薬品で、がんなどに対する新たな治療手段として期待されています。“マイクロRNA”に関する研究は、そんな「核酸医薬」の開発にも役立つものだと考えられます。
さらに、“マイクロRNA”はがんや感染症以外にも多くの病気に関係していると考えられています。そこで、病気と“マイクロRNA”の関係性が解明できれば、病気の有無や進行度合いを推測する新たな検査方法を構築できるかもしれません。
高校生のころ、漠然と「なにか人の役に立つようなことがしたい」と思っていました。ただ、目の前にいる誰か一人ひとりに向き合うのではなく、もっと多くの人につながる道の根元の方にいたいと考え、理学の道を選びました。
理学ならではの「浪漫溢れる基礎研究」だからこそ、病気の予防や治療も含めたあらゆることにつながる本質的なヒントが得られると信じて取り組んでいます。
これまでは主に、実験室で培養した細胞を用いた研究を中心に行ってきましたが、今後は他の研究機関とも連携し、実際の患者さんの検体を使った研究にも取り組む予定です。
細胞や遺伝子の世界は、まるで宇宙のように謎に満ちています。細胞の中で何が起きているのかを明らかにすることで、「ヒトとは何か?」という未知の世界に対するワクワクを感じながら、日々の研究に取り組んでいます。