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研究・産学官連携

ウイルス感染に関する細胞の応答メカニズムを明らかに

~遺伝子発現を抑制するmicroRNAに着目!~

Frontiers of SU Research

NEXT GENERATION理工学研究科高橋 朋子

細胞内で、DNA(デオキシリボ核酸)からの情報を受け取り、タンパク質を合成する役割を果たすRNA(リボ核酸)。そんなRNAに着目し、ウイルスが体内に入ると細胞内でどのようなことが起こるのかを解き明かすため、日々研究に勤しむ研究者がいる。本学 理工学研究科の高橋朋子助教だ。

遺伝子発現を抑制するmicroRNA

 私が取り組む研究テーマを一言で表すならば「RNAにより制御される細胞の抗ウイルス応答メカニズムの解明」ということになる。
 RNAというと、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進んだことで広く知られるようになった「mRNA(メッセンジャーRNA)」を思い浮かべる人が少なくないかもしれない。mRNAは「タンパク質をつくり、遺伝子を発現させる」ための情報(メッセージ)をもつRNAだが、実はこのメッセージをもたない「ノンコーディングRNA」が細胞内には多く存在している。
 さらに「ノンコーディングRNA」は、塩基長が長いものと短いものにわけられるが、私が着目しているのは、塩基長が短い「microRNA(マイクロRNA)」と呼ばれるもの。
 microRNAには、mRNAからのタンパク質合成を抑制する働きがある。このmicroRNAの働きがウイルスに対する防御機構になっていることが明らかになってきた。そこで、ウイルスが感染すると、microRNAが細胞の中でどう働くのかを調べている。
 ヒトのmicroRNAは、現在わかっているだけで2,000種類以上。組織やウイルスの種類に応答して、その発現パターンは異なる。これらの応答メカニズムを明らかにすることがミッションだ。
 一口にウイルス感染といっても、細胞内では様々な応答が誘導されている。
 例えば、新型コロナウイルスに感染しても、重篤化する人もいれば、その逆も存在するが、そのようなことが細胞レベルでも生じているわけだ。なぜ、そのようなことが起こるのかが分かれば、新たな医薬品の開発や治療法の確立に貢献できるのはいうまでもない。
 これまでの研究実績の1つに「ウイルス感染が細胞死を引き起こすメカニズムの解明」がある。ウイルスには、感染すると細胞死を引き起こすものと、そうでないものがあるが、細胞死を引き起こすウイルスに感染した際に、どういうmicroRNAが働いて細胞死を誘導するのかを解明した

医療の進歩への貢献のために共同研究を推進

 「実際に手を動かして実験を行う――いわゆる"ウェット"な研究と、コンピュータを駆使して解析を行う"ドライ"な研究」の両方を手がけていることが、私たちの研究室の特徴である。先に話した通り、microRNAには、2,000以上の種類が存在する。これをすべて"ウェット"で行うとなるとコストも時間も手間も膨大になってしまう。そこでバイオインフォマティクス技術を併用することで、実験効率の向上を図っているのだ。
 さて、近年、化学合成によって人工的につくられた「siRNA」による核酸医薬品の開発が本格化しているが、これもmicroRNA同様に塩基長が短いRNAである。siRNAにも、mRNAの遺伝子発現を抑制する働きがあり、医薬品の効果はこの働きによるものだ。
 例えば、ある遺伝子が過剰に発現することで、がんになってしまうなら、siRNAの働きでその遺伝子の発現を抑制するという具合である。
 ここで注目したいのは、1つのsiRNAは、1つの遺伝子に対してしか発現抑制作用を有しないことだ。一方、microRNAは、発現を抑制する遺伝子は1つではない。特定の機能をもつ遺伝子群全体に作用するのである。
 microRNAを利用した核酸医薬品はまだ存在しないがsiRNAとは作用が異なるmicroRNAの遺伝子発現抑制メカニズムが明らかになれば、核酸医薬品の可能性はさらに広がるだろう。
 現在は基礎的な研究を中心に取り組みを進めているが、将来的には創薬に貢献するようなテクノロジーの開発なども行っていく考えだ。これまでも核酸医薬研究に取り組む研究室などと共同研究を進めてきたが、研究成果を社会に還元するためにも、化学、物理、医学、薬学など、専門領域外の研究者とのコラボレーションを活発化させていきたい。

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