2023/02/28
オジギソウがおじぎするのは何のため? 生物学における長年の謎を本学大学院生が解明!
本学豊田正嗣教授の研究グループのオジギソウの「虫害防御高速運動」に関する論文が英国の科学雑誌『Nature Communications』に掲載
2023/02/28
本学豊田正嗣教授の研究グループのオジギソウの「虫害防御高速運動」に関する論文が英国の科学雑誌『Nature Communications』に掲載
大学院理工学研究科 博士2年
(埼玉大学理学部卒業。埼玉県立所沢北高等学校出身)
一部の葉っぱにちょっと触れただけでも、連なった葉っぱが一斉に閉じる様がユニークなオジギソウですが、なぜそのような動きをするのかは、これまで明らかになっていませんでした。そんな中、本学大学院理工学研究科の豊田正嗣教授の研究室に所属する大学院生、萩原拓真さんがこの謎を解明。2022年11月に論文が発表されると、テレビや新聞などで大きな話題となった注目の研究内容について、ご本人に話を伺いました。
葉っぱの一部に触れると、全ての葉っぱが閉じるという、不思議な動きをするオジギソウ――。私の研究テーマは、その動きのメカニズムやなぜそのような動きをするのかを解明することです。
その独特な動きから、昔から研究対象となってきたオジギソウですが、実はこれまで葉っぱが閉じる理由は明らかになっていませんでした。
そんな中、オジギソウが葉っぱを動かす理由を科学的に解明し、その成果をまとめた論文を2022年11月に発表することができました。
今回、私が取り組んだ研究では、細胞内で情報伝達などを行う「Ca²⁺シグナル」を可視化して観察できるオジギソウと、刺激を受けても葉っぱが閉じることができないオジギソウを用いました。これらを解析することで、オジギソウが葉を閉じるのは、草食性昆虫から身を守るためだということを科学的に突き止めたのです。
もう少し具体的に説明すると「Ca²⁺シグナル」を可視化することで、オジギソウは葉の一部に刺激を受けると全身に「Ca²⁺シグナル」を高速に伝達させ、葉を次々と動かすことがわかりました。さらに葉っぱが閉じないオジギソウと普通のオジギソウをバッタに食べさせて、その食べられ方を比較。すると、動かない葉の方がより多くバッタに食べられることが明らかに。このような実験により、先ほどお話した結果にたどり着くことができました。
葉を傷つけると(2秒、白矢印)、葉枕でCa²⁺シグナルが発生し(黄矢尻)、次々に葉の運動が起こります(赤矢尻)
(豊田正嗣教授提供)
テレビや新聞など様々なメディアに取り上げていただくなど、論文を発表するやいなや大きな反響があったことはとても驚かされました。オジギソウが私たち日本人にとっても身近な存在であることや「Ca²⁺シグナル」が光る様子を撮影した映像のインパクトが強かったこともあって、これほどまでに注目を集めることができたのではないでしょうか?
今回の研究成果は、将来的に環境問題や食糧問題の解決に寄与できるものだと期待しています。例えば、オジギソウが葉っぱを動かすメカニズムがわかったことで、葉っぱを動かすことで、農薬を使わずに虫害を防ぐ野菜を開発する――そんなことが実現できるかもしれません。
研究を振り返ると、様々な苦労がありましたが、中でもオジギソウの葉っぱが意図しないところで動いてしまうことにはとても苦労させられました。オジギソウの葉っぱはとてもデリケートで、エアコンの風が当たっても、実験装置に移動する際にちょっと揺らしてしまうだけでも、閉じてしまうのです。
1度葉っぱが閉じると、開くまでに10~20分はかかってしまいます。夜になると葉が閉じてしまうため、そもそも実験時間が限られているオジギソウの研究では、それだけで大きなタイムロスになってしまうのです。
また葉っぱを食べるバッタがいうことを聞いてくれないのも悩みの種でした。こちらが望むタイミングで葉っぱを食べてくれないのは日常茶飯事ですし、実験中に行方不明になることもしばしばありました。そう考えるとオジギソウの研究をやり切る秘訣は「粘り強く実験に取り組むこと」に尽きますね。
実験には大変なことも多いですが、やはり自分の手で新しいことが発見できるのは、研究の醍醐味です。いずれにせよ、ここまで研究を進められたのも、論文をまとめることができたのも、指導教官である豊田正嗣教授の指導とサポートがあったからこそ。また、豊田研究室では、研究発表やセミナーはすべて英語で行います。取り組む研究テーマも世界で渡り合えるような内容なので、元々グローバルで活躍したいという気持ちが強い私にとっては、とても魅力的な環境です。
さて、私は埼玉大学理学部出身ですが、当時の学びが、現在の研究にも大いに役に立っています。例えば、埼玉大学の理学部には「埼玉大学理学部ハイグレード理数教育プログラム(HiSEP)」というプログラムがありますが、これは「研究者の芽」を育て、大学院における高度な研究活動で開花させるため、大学4年間を通して高度な理数教育を行うもの。私は学部1、2年次の2年間のみでしたが、このプログラムを受けたことで、科学に関する幅広い視点が身についたのはいうまでもありません。
将来、研究者の道に進みたいという高校生には、普段の授業や受験勉強など、まず目の前にあることにしっかり取り組んで欲しいと思います。私自身は、高校時代、自分がこのような研究をしていることは想像もしていませんでしたが、大学時代と同様に、高校時代に経験したことや学んだことは研究に取り組む上での糧になっていますから。
研究の道は、頑張れば必ず成果が出るような単純なものではありません。それでも諦めず粘り強くやらなければ、何も成し得ないことは確かです。「研究者になりたい」「研究に携わりたい」という気持ちを持ち続けて、諦めずに粘り強く取り組み続けることが大切だと考えています。
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