2025/09/30
【教養学部】米国の通商政策を実証的に分析
教養学部 グローバル・ガバナンス専修課程/冨田研究室
2025/09/30
教養学部 グローバル・ガバナンス専修課程/冨田研究室
近年、米国では自国の産業を守るために、輸入を制限したり、移民の受け入れを減らしたりと、グローバル化に逆行するような政策をとっています。でも、経済学の理論だけでは、なぜそんな政策が支持されるのかは説明しきれません。本学教養学部の冨田晃正教授は、そうした現実を、経済学に政治の視点を取り入れながら分析し、より深く理解する研究を行っています。今回はそんな冨田教授に、研究の意義や研究に進んだきっかけについて語っていただきました。
これまで米国や日本など、数多くの国々で自由貿易を基本としたグローバル化(国境を越えて経済活動を拡大させること)が進んできました。けれど最近は、その流れに変化が見られます。たとえば米国では、輸入制限や関税の引き上げによって、自国の産業を守ろうとする「保護主義」政策が取られるようになっています。
市場の競争を促すことで経済成長が見込める自由貿易の方が、経済学的には合理的だといわれているのに、なぜ逆のことをするのか?
そこには、単なる経済学の理論だけでは説明できない、政治的な判断などが複雑に影響しているのです。
私は国際政治経済学を専門にしていて、特に米国の貿易政策に注目した研究に携わっています。先にお話したような経済理論だけでは解き明かせない疑問に、政治の視点を加えて分析することで、よりリアルな理解を目指しているのです。
たとえば、保護主義を進めると国内産業の人手が必要になりますが、同時に移民を制限する政策も行われている。こうした矛盾をどう読み解くかも、私の研究のテーマの1つです。
この研究分野に進んだのは、大学院時代のことです。当時は「世界はどんどんひとつになっていく」と、多くの人がグローバル化を信じていました。でも私は、「本当にそうなのだろうか?」と疑問に思っていました。
そして、米国内にグローバル化に反発する勢力があることを知り、彼らの動きがグローバル化にどのような影響を与えるのかを調べるように。これが現在の研究につながっています。
現在、第2次トランプ政権が保護主義的な貿易姿勢を強めたことで注目されるようになりましたが、当時の日本ではこのような研究に取り組む研究者はまだ珍しい存在でした。
ただ、これまで地道に続けてきた分、研究を深いところまで掘り下げられると考えています。これまでの研究実績を活かしながら、今後も私にしかできない独創的な研究を続けていきたいですね。
研究は、米国の議員スタッフや業界団体へのインタビューの結果やアンケートなど、さまざまな方法で、現実に起きたことを客観的に分析する実証研究により進めています。
ただ社会の変化は「今」だけを見ても理解できません。
たとえば、トランプ政権の保護主義的な政策は、極端で特殊なことのように考える人も存在します。しかし、米国では20世紀初頭にも似たような動きがありました。そのような事実から考察できることも多いため、研究では歴史を紐解くことも行います。
また最近では日本でも移民や保護主義についての議論が増えているため、研究対象を日本にも広げています。
私の研究では、保護主義や自由主義、さらには移民問題の是非を問うことが目的ではありません。現実に起きていることを、客観的、実証的に理解するために行っているのです。そして、研究の成果が少しでも社会に役立てばと願っています。
だからこそ、これからも社会の変化をしっかり見つめながら、研究と社会貢献のバランスを大切にしていきたいですね。