2024/10/03
【経済学部】すべての人が人間らしく仕事をするために――フェミニズムの視点から経済学を捉え直す
経済学部 メジャー 経済分析/金井研究室
2024/10/03
経済学部 メジャー 経済分析/金井研究室
経済学の多くの理論は「人はそれぞれの利益を追求するもの」という前提で成り立っていることをご存知でしょうか? しかし、世の中で生活する人々は必ずしも経済的な利益のみを考えて行動しているわけではありません。それ故、「私たちが直面している課題の中には、既存の経済学の理論では説明できないものが数多く存在する」と本学経済学部の金井 郁教授は話します。そんな金井教授が取り組むのは、既存の経済学を再構成し、世の中すべての人の生活の質を向上させるための新たな理論を構築しようという「フェミニスト経済学」。注目の研究内容について語っていただきました。
専門は労働問題と社会政策を扱う「労働経済論」ですが、その中でも近年は「フェミニスト経済学」という学問分野にフォーカスした研究に取り組んでいます。
「フェミニスト経済学」とは、その名の通り「フェミニズム」の視点で経済学を考えるもの。しかし、誤解していけないのは、単に女性の地位を向上させることが研究の主目的ではないということです。
例えば、家事や育児、介護などの「ケア労働」について考えてみましょう。ケア労働は、赤ちゃんや身体の不自由なお年寄りにとって欠かせないものなのは言うまでもありません。
しかし、従来の経済学では「ケア労働」は蚊帳の外に置かれてきました。なぜなら経済学では、人は自らの利益のために行動するものという考え方が前提にあり、賃金が発生しない労働は考慮する必要がないとされてきたからです。とはいえ、ケア労働がなければ世の中は成り立ちません。そこで既存の経済学ではとらえきれていないケア労働を考慮した経済理論を生み出す必要があると考えられます。
具体的には、赤ちゃんや障害者、お年寄りなど、社会的・経済的に自立していない人の存在やそのような人たちのケアを行う人たちも視野に入れて、経済学を再構築しようという訳です。
ケア労働の多くは女性が担うことが多いため、「フェミニスト経済学」では特に注目すべきテーマの1つです。国の政策も既存の経済学の理論を使っているため、ケア労働が考慮されていません。その結果、非正規労働を選択する女性が多いという事実が生じています。
研究の成果は、女性に限らず、様々な差別・抑圧といった不平等をなくし、あらゆる人々の暮らしぶりをよくすることにつながるものです。さらに研究の成果により、女性の働き方が変われば、男性の働き方にも変化が現れるでしょう。
最終的には、政策提言などを行い、非正規雇用労働者の増加にまつわる問題や少子高齢化など、様々な社会課題の改善に貢献したいと考えています。
既存の経済学では市場の経済成長を目指して理論が構築されていますが、「フェミニスト経済学」の目標は、性差別に関する問題を起点に、あらゆる人の生活の質を向上させること。そもそもの目的が異なる点も特徴の1つだといえます。
研究では、実際の企業に訪問してインタビューを行い事例を研究したり、統計を分析したりします。時には、アンケート調査を行うこともありますが、様々な調査の結果を分析し理論を構築していきます。
実は「フェミニスト経済学」は、以前から数多くの研究者が取り組んできた学問分野。意外と歴史があります。また「フェミニスト経済学」は学際的な学問で、社会学や地理学、法学、歴史学など、様々な知見が必要ですが、2023年に出版した『フェミニスト経済学』(長田華子、金井 郁、古沢希代子編、有斐閣)で、その基本的な考え方を体系づけることができました。
また、いまのところ(2024年7月現在)、「フェミニスト経済学」の講義が用意されているのは、埼玉大学だけなので興味のある学生は入学を検討して欲しいですね。
いずれにせよ、この分野で取り組むべき研究テーマが尽きることはありませんので、今後も地道に研究を続けていきたいと思います。
研究の醍醐味は社会の構造を少しずつ明らかにできることに尽きるでしょうか。繰り返しになりますが、最終的なゴールは、すべての人が人間らしい仕事をして、幸せな暮らしを実現するための示唆を与えること。そのような思いを胸に楽しみながら研究に取り組んでいます。