2026/09/25
【教育学部】違いが当たり前な、学びの場をつくる
教育学部 磯田研究室
2026/09/25
教育学部 磯田研究室
外国にルーツをもつ子どもや貧困家庭の子ども、障がいのある子ども――学校の教室には、さまざまな背景をもつ子どもたちがいます。本学教育学部の磯田三津子教授が取り組むのは、そのような多様な背景をもつ子どもたちが、誰ひとり取り残されず、同じ場で共に学び、育つことができる環境づくりの研究。教育現場での実践を調査しながら、誰もが安心して学べる教育のあり方を探る磯田教授に、研究の内容について語っていただきました。
私が取り組んでいる研究分野は「多文化共生・インクルーシブ教育」です。
これは、国籍や文化、家庭環境、障がいの有無などに関わらず、すべての子どもが安心して学べる学校づくりについて考える研究です。
現在の学校には、さまざまな背景をもつ子どもたちがいます。そうした子どもたちが、お互いの違いを認め合いながら学べる環境をどのようにつくるのか。そのような問いに向き合っています。

研究では実際に学校を訪問し、多文化共生やインクルーシブ教育を実践している先生方へのインタビューや授業観察を行います。
最近では、外国にルーツをもつ子どもが多く通う小学校や、人権教育に力を入れている高校などを訪問しています。
これまでの学校教育では「みんな同じであること」が重視される傾向がありました。しかし、「多文化共生・インクルーシブ教育」では、個人の違いをなくすことではなく、「人は違っていて当たり前」と感じられる環境をつくることが重要だと考えられます。
例えば、外国にルーツをもつ子どもの中には、自分の名前や使っている言語、文化的な背景を隠そうとしてしまう子が存在します。しかし、自分の背景を前向きに語れるかどうかは、学校でどのような経験をしたかによって大きく変わるものです。自分のことを話し、それを誰かが「そうなんだね」と受け止めてくれる。そんな経験を通して、人は初めて安心できる居場所を見つけられるのではないでしょうか。
私は、こうした学校での実践を調査しながら、誰もが自分らしさを大切にしながら学び、活躍できる社会をつくるためのヒントを探しています。この研究は、特定の人だけではなく、この国で暮らすすべての人に関わるテーマだと考えています。

私はもともと音楽大学を卒業し、ある高校で音楽の講師をしていました。
ところが、クラシック音楽を教えても、生徒たちはなかなか興味を示してくれませんでした。なぜうまくいかないのかと考えていくうちに、家庭環境や文化的背景など、生徒一人ひとりがさまざまな背景をもっていることに気づいたのです。そこで、「多文化共生・インクルーシブ教育」に関する本を読み、さまざまな実践を重ね、音楽を教えるためには音楽の知識だけでなく、「学ぶとはどういうことか」を考える必要があると感じるようになりました。そして大学院に進学し、研究者の道へ進むことになったのです。
これまでの実践の1つに、ヒップホップの要素を教育に取り入れる「ヒップホップ・ペダゴジー」という手法があります。この実践では、生徒たちが自己紹介のラップを作ることで、普段は見えなかったお互いの一面を知り、理解を深める姿が見られました。
最近、調査した授業の中で、特に印象に残っているのが、夜間中学の音楽の授業です。そこには年齢や国籍の異なる生徒が集まっています。合唱の際、先生は最初から「音程を合わせよう」とは言いません。まずは自由に歌ってもらうのです。すると、生徒たちは安心して声を出せるようになり、教室の雰囲気も良くなっていきました。もちろん、音程やリズムはすぐにはそろいません。しかし、互いの違いを認めながら同じ場を共有する姿に、インクルーシブな集団づくりのヒントがあると考えています。

こうした優れた教育実践は、そのまま他の学校で再現できるとは限りません。なぜなら学校ごとに地域や生徒の状況が異なるからです。また、なぜその実践が成功したのかを完全に証明することも簡単ではありません。だからこそ、実践をそのまま真似するのではなく、その中にある大切な考え方や工夫を見つけ出し、多くの学校で活用できる形に整理することを目指しています。
さまざまな教育現場をめぐる中では、多文化共生や人権教育への取り組みには、地域によって違いがあることも感じています。特に外国にルーツをもつ子どもへの支援は、現場の先生方の努力に支えられている部分も少なくありません。
近年、日本で暮らす外国人が増え、学校もこれまで以上に多様な環境になっています。そのため、多様な背景をもつ人々が共に学び、生活していくための仕組みづくりは、ますます重要になるでしょう。だからこそ、研究成果を論文や書籍を通じて発信することには、大きな社会的意義があると考えています。研究によって得られた知見が、全国の学校で多様な子どもたちを支えるための手がかりになるからです。
