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研究トピックス一覧

手足の複雑な形をつくる共通の仕組みは、腹ヒレから始まった -後方の腹ヒレから前方の胸ヒレへ、Hox遺伝子システムの進化モデルを提唱-(大学院理工学研究科 川村哲規 准教授)

2026/10/19

プレスリリース全文は、こちらからご覧ください。

概要

埼玉大学大学院理工学研究科の川村哲規 准教授、中澤秀道 大学院生(同大学院博士後期課程3年)、鳥取大学医学部の阿部玄武 准教授、九州大学高等研究院の裏川浩平 学術研究員(研究当時:鳥取大学大学院博士課程)を中心とする研究グループは、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の前野哲輝 技術専門職員、鳥取大学医学部の竹内隆 元教授、松原遼 助教、自然科学研究機構 基礎生物学研究所/生命創成探究センターの東島眞一 教授らとの共同研究により、魚の腹ヒレと四肢動物※1の後肢をつくり始める際に、共通してHox9–10遺伝子群が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

ゼブラフィッシュ※2でHoxA/D9–10遺伝子群を失わせると、腹ヒレのもとになる細胞集団が検出されなくなり、腹ヒレそのものが完全に失われました。さらに、両生類のイベリアトゲイモリ※3でもHox9–10遺伝子群を破壊すると、後肢の形成が大きく損なわれました。これにより、魚の腹ヒレと四肢動物の後肢をつくり始める初期段階で、共通するHox遺伝子※4の仕組みが重要であることが明らかになりました。

今回の成果は、もともと体の後方を決めていたHox9–10の仕組みが、まず腹ヒレの形成に利用され、そこからヒレや手足を複雑な形につくるHoxA/D9–13※5システムへと発展し、さらに前方の胸ヒレへと広がったという進化モデルを支持します(図1)。魚のヒレから私たちの手足へ――その進化を支えた遺伝子システムの源泉が、腹ヒレにあった可能性を示す成果です。

本成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』に掲載されました。

図1

ポイント

・5億年以上前に現れた初期の脊椎動物は、現在の魚のような胸ヒレや腹ヒレをもっていませんでした。その後の進化で、体の左右に一対ずつある胸ヒレと腹ヒレ(対ヒレ※6)が獲得されました。そして、古代の魚類の一系統から、やがて手足をもつ動物が進化し、胸ヒレと腹ヒレは、私たちの手足へとつながっていきました。

・魚の胸ヒレ・腹ヒレから私たちの手足まで、それぞれの形は大きく異なりますが、その複雑な形をつくるために、HoxA/D9–13という共通の遺伝子システムが使われています。この仕組みはゼブラフィッシュとマウスの両方にみられることから、両者の系統が分かれる以前の共通祖先の段階ですでに成立していたと考えられます。しかし、それよりも前に、この仕組みがどのように生まれたのかは分かっていませんでした。

・今回、ゼブラフィッシュでHoxA/D9–10遺伝子群を失わせると、腹ヒレのもとになる細胞集団が検出されなくなり、腹ヒレそのものが完全に失われることを発見しました。

・さらに、両生類のイベリアトゲイモリでもHox9–10遺伝子群を破壊すると、後肢の形成が大きく損なわれました。このことから、魚の腹ヒレと四肢動物の後肢をつくり始める段階で、共通するHox9–10の仕組みが使われていることが明らかになりました。

・これらの結果は、もともと体の後方の位置を決めるために働いていたHox9–10の仕組みが、まず腹ヒレの形成に利用され、その後HoxA/D11–13もこの仕組みに組み込まれることで、ヒレや手足を複雑な形につくるHoxA/D9–13システムへと発展し、さらにこの仕組みが前方の胸ヒレへと転用されたという進化モデルを支持します(図1)。

論文情報

掲載紙 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)
論文名 A conserved Hox9–10 code underlies the early establishment of hind appendage progenitors in zebrafish and the Iberian ribbed newt
著者名 Hidemichi Nakazawa*, Kohei Urakawa*, Akiteru Maeno, Towa Fujibayashi, Mizuki Ishizaka, Atsuki Ishizu, Touma Asano, Haruka Matsubara, Takashi Takeuchi, Ikuko Watakabe, Shin-ichi Higashijima, Gembu Abe#, Akinori Kawamura#   (* 共同筆頭著者、#共同責任著者)

 

中澤秀道、裏川浩平、前野哲輝、藤林飛羽、石坂瑞樹、石津充己、浅野斗雅、松原 遼、竹内 隆、渡我部育子、東島眞一、阿部玄武、川村哲規
DOI  10.1073/pnas.2621291123
URL  https://doi.org/10.1073/pnas.2621291123

用語説明

※1 四肢動物
前肢と後肢をもつ脊椎動物のグループで、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などが含まれます。古代の魚類の一系統から進化し、胸ヒレと腹ヒレに対応する器官が、それぞれ前肢と後肢へと変化しました。

※2 ゼブラフィッシュ
インドなどを原産とする小型の淡水魚で、発生や遺伝子の働きを調べるためのモデル動物として世界中で利用されています。遺伝子を改変した個体を作製しやすく、脊椎動物の体や器官がどのようにつくられるのかを研究するために広く使われています。

※3 イベリアトゲイモリ
イベリア半島に生息する両生類の一種で、四肢の発生や再生、遺伝子の働きなどを研究するモデル動物として利用されています。本研究では、ゼブラフィッシュで見つかったHox9–10の働きが、四肢動物の後肢にも共通しているかを調べるために用いました。

※4 Hox(ホックス)遺伝子
動物の体を頭から尾に向かってつくる際に、「体のどの位置に、どのような構造をつくるか」を決める重要な遺伝子群です。脊椎動物ではHoxA、HoxB、HoxC、HoxDという4つのグループがあります。Hox遺伝子はヒレや手足が進化するよりも古くから存在し、その後、ヒレや手足をつくるためにも利用されるようになりました。

※5 HoxA/D9–13
HoxAとHoxDに属するHox遺伝子のうち、9番から13番に相当する遺伝子群をまとめた呼び方です。魚類の胸ヒレ・腹ヒレから四肢動物の前肢・後肢まで、複雑な形をつくるために共通して使われています。本研究では、ゼブラフィッシュではこのうちHoxA/D9–10が、腹ヒレのもとになる細胞集団が成立する初期段階に必要であることを明らかにしました。

※6 対ヒレ
魚の胸ヒレや腹ヒレのように、体の左右に一対ずつ存在するヒレのことです。胸ヒレは四肢動物の前肢に、腹ヒレは後肢に進化的に対応します。脊椎動物の初期の祖先は対鰭をもっておらず、進化の過程で新たに獲得されたと考えられています。

川村 哲規(研究機構 科学分析支援センター)|埼玉大学 研究者総覧

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