室温固体材料で世界最高水準の核スピン偏極率61%を達成―次世代量子技術への応用に期待―(大学院理工学研究科 上坂友洋連携教授)
2026/1/16
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概要
理化学研究所(理研)開拓研究所上坂スピン・アイソスピン研究室の立石健一郎研究員(仁科加速器科学研究センター核反応研究部研究員)、上坂友洋主任研究員(仁科加速器科学研究センター核反応研究部部長、埼玉大学大学院理工学研究科連携教授)、埼玉大学大学院理工学研究科の大塚脩司大学院生(研究当時)、東京大学大学院工学系研究科附属ナノシステム集積センターの黒澤俊介特任准教授(東北大学ニュートリノ科学研究センター客員准教授)、東北大学ニュートリノ科学研究センターの山路晃広学術研究員の共同研究グループは、室温(293ケルビン、約20℃)における比較的弱い磁場(0.64テスラ[1])条件下で、固体中の水素(¹H)核スピン偏極率[2]として世界最高値となる61%を達成しました。
本研究成果は、量子物性研究や放射線耐性偏極標的など、次世代量子技術への応用展開が期待されます。
核スピンを量子技術に利用するためには、高い核スピン偏極率により量子特有の性質を発現させる必要があります。しかし、室温下の固体材料では熱の影響を強く受けるため核スピン偏極率が低くなり、量子技術への利用には至っていませんでした。
今回、共同研究グループは、光励起三重項電子を用いた動的核偏極(トリプレットDNP)法[3]において、新たに導入した有機結晶材料ジベンズ[a,h]アントラセンが、トリプレットDNP法に適した分子であることを見いだしました。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Chemical Physics Letters』オンライン版(2025年12月24日付)に掲載されました。

論文情報
| 雑誌名 | Chemical Physics Letters |
|---|---|
| タイトル |
¹H polarization above 60% at room temperature by triplet dynamic nuclear polarization |
| 著者名 |
立石健一郎、大塚脩司、山路晃広、黒澤俊介、上坂友洋 |
| DOI | 10.1016/j.cplett.2025.142606 |
| URL | https://doi.org/10.1016/j.cplett.2025.142606 |
補足説明
[1] テスラ
磁場の単位。1テスラはネオジム系などの強力永久磁石の表面磁場と同等の強さ。
[2] 偏極率
電子や原子核が持つスピンの向きが外部磁場に対してどれだけそろっているかを表す物理量。核スピン偏極率とは核スピンの偏極の割合のこと。核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance: NMR)信号の強さは核スピン偏極率に比例するが、今回の実験条件(室温、磁場0.64テスラ)では水素原子核(¹H)スピン偏極率は0.002%程度しかなく、信号は非常に弱くなる。核スピン偏極率を高めることでNMR感度が飛躍的に向上するだけでなく、磁気秩序などの新しい物理現象の観測が可能となる。
[3] 光励起三重項電子を用いた動的核偏極(トリプレットDNP)法
レーザー照射などの光励起によって生じる三重項励起状態([4]参照)の電子スピンは、複数のスピンが一つの準位に大きく偏った高いスピン偏極を持つ。このスピン偏極をマイクロ波照射と磁場掃引(じばそういん)によって核スピンへ移すことで、超核偏極状態をつくり出すことができる。

[4] 三重項励起状態
原子や分子の電子が、外部からの光や電流によって励起された高エネルギーの状態。そのうち、一重項励起状態では全電子のスピンが二つずつ互いに反平行であり、三重項励起状態ではスピンが平行な電子が二つある。
