水の赤外光物性を定量的に計算可能な手法を開発 ―地球大気や星間空間の水の構造解明に貢献―(大学院理工学研究科 山口祥一教授 共同研究)
2025/12/11
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発表のポイント
- 水や氷の赤外光物性を定量的に計算できる手法の開発に成功。
- 微粒子や薄膜など界面が重要となるナノサイズの水・氷の赤外スペクトルが予測可能に。
- 地球や宇宙に存在する液滴、氷微粒子の構造を理解するための手法として期待。

概要
東京大学大学院総合文化研究科の持田偉行フィッチ大学院生、羽馬哲也准教授、埼玉大学大学院理工学研究科応用化学プログラムの高山哲侑大学院生、山口祥一教授らの研究グループは、量子古典混合法と呼ばれる理論計算手法を用いて、水の赤外光物性[赤外光を照射した際に見られる特徴的な性質、ここでは特に複素屈折率(注1)や吸収断面積(注2)など]を定量的に計算する方法を新たに開発しました。本計算手法を用いることで、界面の影響を考慮する難しさからこれまで困難であった水の微粒子や薄膜の赤外スペクトル(注3)を理論的に予測することが可能になり、その構造について分子レベルで明らかにすることができます。水や氷の微粒子は、地球の雲粒子(注4)や宇宙の氷星間塵(注5)など自然界に豊富に存在します。また雲粒子や氷星間塵の模擬物質として水や氷の薄膜を用いた実験研究が現在活発に行われています。本研究成果によって、水や氷の微粒子・薄膜の構造と物性について大きく理解が進み、地球科学や天文学に貢献することが期待されます。
論文情報
| 雑誌名 | The Journal of Physical Chemistry Letters |
|---|---|
| 題名 | An extended mixed quantum/classical approach for quantitative calculation of complex refractive index |
| 著者名 |
Ian Fitch Mochida∗, Tetsuyuki Takayama, Shoichi Yamaguchi, and Tetsuya Hama* |
| DOI | 10.1021/acs.jpclett.5c02887 |
| URL | https://doi.org/10.1021/acs.jpclett.5c02887 |
用語解説
(注1)複素屈折率:
屈折率とは、真空中での光の速度と物質中の光の速度との比で表される物理量である。複素屈折率とは、屈折率の定義を光吸収を起こす物質に対して拡張した物理量であり、ある物質の複素屈折率は実部nと虚部kを用いてn+ikと表される(iは虚数単位)。複素屈折率と複素誘電率(注12)との間には密接な関係があるため屈折率も複素数で表される。
(注2)吸収断面積:
分子による電磁波(本研究では赤外光)の吸収の効率を表す物理量。面積の次元を持つ。
(注3)赤外スペクトル、赤外分光法:
波長が2.5~20 m(波数にして4000~500 cm-1)ほどの赤外光を物質に照射すると、物質内の分子の振動により特定の波長領域において光吸収が起こる。物質に赤外光を照射し、透過または反射した光を測定する分析手法を赤外分光法と呼び、赤外光の波長(あるいは波数)と強度の関係性を図示したものを赤外スペクトルと呼ぶ。赤外スペクトルを理論的に解析することで、物質の構造解析や濃度の定量を行うことができる。
(注4)雲粒子:
雲を構成する微小な水滴や氷微粒子のこと。
(注5)氷星間塵:
星間空間に存在する0.1 µm程の氷微粒子。鉱物や炭素質物質を核として表面は氷に覆われている。太陽系の天体(彗星や惑星など)を含む惑星系は氷星間塵を材料として形成される。
(注12)複素誘電率:
誘電率とは物質中の電界の伝播を表す物理量であり、一般に複素数となるため複素誘電率とも呼ばれる。
