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研究トピックス一覧

有機伝導体が示す電荷ガラス状態からの2次元結晶化-ガラス物理の新現象-(大学院理工学研究科 谷口弘三教授、道村真司准教授、小林拓矢助教 共同研究)

2025/10/28

プレスリリース全文はこちらからご覧ください。

ポイント

  • 電荷のフラストレーション効果を持つ有機伝導体において、電荷ガラス状態の脱ガラス化が、従来の3次元的な結晶化ではなく、2次元的な電荷秩序(電荷結晶化)であることを明らかにしました。
  • 謎多きガラス物理における新現象の発見と、二次元ガラスをはじめとする応用分野への波及効果が期待されます。

概要

電荷のフラストレーション効果を持つ層状有機伝導体において観測される「電荷ガラス状態」の経時変化が、通常のガラスに見られる単純な結晶化ではなく、二次元的な結晶化であることが明らかにされました。これまでの研究では、電気抵抗測定、核磁気共鳴(NMR)測定、ラマン分光測定など、電荷に敏感な手法によってその性質が調べられてきました。これに対し今回の研究では、電荷の自由度とは異なる観点から磁化率に着目し、電荷ガラス状態の経時変化を詳細に解析しました。その結果、電荷ガラス相とも、既知の三次元的な電荷秩序相とも異なる、磁化率がそれらよりも大きな値を示す第三の相の存在が見出されました。さらに、電気抵抗率の異方性の測定および過去のX線回折実験の知見を総合的に検討した結果、この新たな相は二次元的な電荷秩序状態であることがわかりました。ガラス状態は、現在においても多くの未解明な側面を残す状態であり、本研究で明らかとなった「電荷ガラスからの二次元電荷秩序状態への相変化」は、ガラス状態の理解を進展させる新たな手がかりとなるものであり、低次元系におけるガラスの物理や、低次元ガラスなど将来的な応用分野への波及効果も期待されます。

本研究は、埼玉大学理学部の卒業生である椎橋裕樹、樋口圭太、村崎遼及び同大学大学院理工学研究科の八谷司(大学院博士前期課程2年)、小林拓矢助教、道村真司准教授、谷口弘三教授のグループと、東京大学物性研究所の吉見一慶博士との共同研究で実施され、日本物理学会が発行する英文誌Journal of the Physical Society of Japan(JPSJ)の2025年8月号に掲載されました。

論文情報

掲載誌 Journal of the Physical Society of Japan, 94, 083703 (2025).
論文名 Metastable Phase with Enhanced Spin Susceptibility Located between Charge Glass Phase and Charge Order Phase in a Layered Organic Conductor
著者名

Hiroki Shiibashi, Keita Higuchi, Tsukasa Hachiya, Shinji Michimura, Takuya Kobayashi, Ryo Murasaki, Kazuyoshi Yoshimi, and Hiromi Taniguchi

DOI https://doi.org/10.7566/JPSJ.94.083703
URL https://journals.jps.jp/doi/abs/10.7566/JPSJ.94.083703
Hot Topics 解説記事 https://jpsht.jps.jp/article/5-046/

用語解説

・電荷のフラストレーション: 
通常の結晶格子(例えば四角格子)に電子を配置していく場合、電子間の斥力相互作用が強く、電子の数が格子の数の半分である場合、一つ飛ばしに電子が整列する電荷秩序状態が実現します。同じ条件で三角格子に電子を配置していく場合は、一つ飛ばしに電子をつめていくと幾何学的な矛盾が生じます。このような効果は電荷の幾何学的フラストレーションと呼ばれます。

・有機伝導体:
有機分子と無機イオンが結合し、結晶内で有機分子がラジカル状態で安定化された伝導体(有機分子と別の有機分子の場合もある)です。有機分子上に不対電子ができて、これが電気伝導を担います。

・BEDT-TTF:
硫黄と炭素と水素から成る有機分子であり、有機伝導体の代表的な構成分子です。

・電荷秩序状態:
電子間の斥力相互作用により、電子が局在した状態です。格子点の電子密度に大きな差が生じ、電子が縞模様、または市松模様のように配列したように見えます。

・電荷ガラス:
幾何学的フラストレーションは、格子が規則的に歪むことによって解消されることがあります。電荷秩序状態も電荷のフラストレーションがこのような格子歪によって解消されたことによって発現することがあります。一方、電荷ガラスは、このような規則的な格子歪みではなく、無秩序な格子歪みによって、電荷がばらばらな状態で凍結した状態であると考えられています。

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