光合成が強光ストレスに応答して膜脂質転換を行う機構を解明－光合成生物の膜脂質改変技術の開発へ－(大学院理工学研究科神保晴彦助教共同研究)

2025/8/26

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ポイント

強光ストレス下では、膜脂質の転換が起こり、リン脂質の一つであるホスファチジルグリセロール（PG）が増加する。
強光下のPGの増加に関わるジアシルグリセロールキナーゼ（DGK）を同定した。
本研究により、強光ストレス応答における膜脂質転換の機能解明が一歩前進した。

概要

光合成生物は、環境ストレスに応答することで、光合成活性を最適化しています。光合成の場であるチラコイド膜においては、強光や低CO₂などの環境変化に応じて膜脂質組成が変化することで光合成活性が制御されていると考えられますが、その分子機構については不明です。本研究では、光合成微生物であるシアノバクテリアを用いて、糖脂質の前駆体であるジアシルグリセロール（DAG）をリン脂質の前駆体であるホスファチジン酸（PA）へ変換するDAGキナーゼ（DGK）の変異株を作出し、強光ストレス応答における膜脂質転換の役割について解明しました。dgkA変異株では、強光ストレス下におけるPGの増加が見られませんでした。さらに、光化学系II二量体（PSII dimer）が蓄積することで、光合成の修復が阻害されていることが示唆されました。これらの表現型は、細胞懸濁液にPGを添加することで解消されたことから、強光下におけるPGの増加が、PSII複合体の単量体化および、修復を促進することが明らかとなりました。

本研究は埼玉大学大学院理工学研究科生命科学部門神保晴彦助教と理化学研究所環境資源科学研究センター中村友輝チームディレクター、東京大学大学院総合文化研究科和田元名誉教授との共同研究で実施され、『The Plant Journal』に8月20日付けにオンラインにて掲載されました。

論文情報

掲載誌	The Plant Journal
論文名	Cyanobacterial diacylglycerol kinase is involved in membrane lipid synthesis and contributes to high-light acclimation of photosystem II
著者名	Kensuke Takagi¹, Yuki Nakamura^{2, 3}, Haruhiko Jimbo^4,†,* and Hajime Wada^{1, †,*} ¹Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo ²RIKEN Center for Sustainable Resource Science ³Graduate School of Science, The University of Tokyo ⁴Graduate School of Science and Engineering, Saitama University †責任著者
DOI	10.1111/tpj.70368
URL	https://doi.org/10.1111/tpj.70368

用語解説

チラコイド膜：光合成の電子伝達が行われる脂質二重層。シアノバクテリアから植物まで、共通して、主要な4種類の膜脂質で構成されている。

光化学系II：光合成において、水を分解して酸素を発生する反応を担うタンパク質超複合体。20以上のタンパク質や、クロロフィルなどの色素、脂質、キノン、金属などが緻密に配置された高度な分子機械である。

神保　晴彦｜埼玉大学研究者総覧