食虫植物ハエトリソウの初動力学を解明~運動の3次元再構築による弾性膜エネルギーの抽出に成功~(大学院理工学研究科 豊田正嗣教授、須田啓助教 共同研究)
2025/7/29
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概要
食虫植物のハエトリソウは虫を捕まえる際に1秒以内の瞬間的な閉じる運動(閉合運動)を行います。この葉が急速に閉じる現象は、外側に湾曲した葉が反り返ることによって急速に状態遷移を起こす座屈(ざくつ)不安定性(1)によって引き起こされると考えられてきました。しかしながら、外側に湾曲していない葉も閉じる能力があることから、葉がどのような仕組みで閉じるかは完全には解明されていませんでした。
本研究では、秋田県立大学の津川暁助教と埼玉大学の豊田正嗣教授、須田啓助教らが協働することで、ハエトリソウの閉合運動を3次元再構築する方法や、運動を再現する弾性力学の推定法の開発に成功しました。その結果、葉の曲率変化が時空間的に不均一であることや、葉の周縁部で細胞変形に関係するであろう引張力が顕著になることがわかりました。
これらの知見により、実際の植物器官の運動データから葉にかかる力学情報を推定可能になるため、多様な植物に存在する曲面構造の変形過程の解析に有用であるだけでなく、そのような植物が持つ優れた曲面変形力学を模倣・設計し、機能的応用を目指すバイオミメティクス(2)やソフトロボティクス(3)の進展も期待されます。
本研究成果は、国際学術誌Scientific Reports誌に、令和7年7月28日午前10:00(グリニッジ標準時,日本時間JST 18:00)に掲載されました。
発表のポイント
1. ハエトリソウの閉合運動の3次元再構築を行い、葉の曲がり具合を表す曲率の変化が時空間的に不均一であることを定量的に明らかにしました。
2. 閉合運動中の弾性エネルギーと対応する力の強さと方向を推定することに成功しました。
3. 生物がもつ高速運動データから弾性力学モデルを再構築することが可能になり、バイオミメティクスやソフトロボティクスの革新的な方法論になることが期待されます。
図1:3次元再構築により葉の全変位・平均曲率・ガウス曲率の定量化に成功

論文情報
雑誌名 | Scientific Reports |
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論文タイトル | Inference of Mechanical Forces through Three-Dimensional Reconstruction of the Closing Motion in Venus Flytrap Leaves (ハエトリソウの葉の閉合運動の3次元再構築による力学推定法) |
著者 | Satoru Tsugawa, Hiroki Asakawa, Michiko Hirata, Tomonobu Nonoyama, Zichen Kang, Masatsugu Toyota, Hiraku Suda |
DOI | 10.1038/s41598-025-10638-2 |
URL | https://doi.org/10.1038/s41598-025-10638-2 |
用語解説
(1)座屈不安定性
構造物がある一定の条件下で安定性を失い、元の形状から大きく変化する性質。
(2)バイオミメティクス
生物が持つ機能・構造・動力学などを模倣して、新しい技術やモノづくりに役立てる科学技術。
(3)ソフトロボティクス
柔軟な素材や動的可変性を利用することで、環境に柔軟性や適応性をもって作用する生物の動きを模倣するロボットを探求・制作する学問分野。