超巨大ブラックホールが撃ち出す超高速のガスの弾丸(大学院理工学研究科 田代信教授、寺田幸功教授、勝田哲准教授 共同研究)
2025/5/27
- プレスリリース全文はこちらからご覧ください
X線分光撮像衛星(XRISM)の観測成果に関する論文が、イギリスの科学雑誌「Nature」に2025年5月15日(日本時間午前0時)に掲載されました。埼玉大学からは田代信教授、寺田幸功教授、勝田哲准教授が、XRISM collaborationのメンバーとして、論文作成に加わっています。また、田代教授はXRISM衛星が行う科学観測の責任者として、寺田教授は、科学運用の責任者として、XRISM衛星全体の運用計画の策定や取得データの処理プロセスを行うチームの統括を行っています。
ポイント
- X線分光撮像衛星 (XRISM:クリズム) の優れた分光能力により、超巨大ブラックホールから超高速で噴き出される風が、予想外に複雑な速度構造を持つことを世界で初めて発見した。
- 複雑な速度構造は、従来考えられていた滑らかな風ではなく、図1のようにぶつぶつとした弾丸のような風であることを示唆する。
- ガスの弾丸が持つエネルギーは予想外に大きいことがわかり、従来の共進化の理論モデルでは説明できない銀河とブラックホールの共進化の新たな可能性が見えてきた。

概要
あらゆる銀河の中心に存在する超巨大ブラックホールは、銀河と密接に関わり合いながら共に進化してきたとされています。この現象は「銀河とブラックホールの共進化」と呼ばれており、宇宙物理学における大きな謎の1つです。この謎を解く鍵と考えられているのが、ブラックホールから周りの領域にガスを強く吹き飛ばす「アウトフロー」もしくは「風」と呼ばれる現象です。この風が、周りのガスを温めたり押し退けたりすることで、銀河の星形成を抑止するのではないかと考えられているのです。
風がブラックホール自身や銀河の進化にどんな影響を与えるのかを理解するには、ガスの運動やエネルギーを精密に測定する必要があります。しかし、これまでの観測では精度が足りず、その詳細は長年の謎となっていました。
今回、XRISM国際共同研究グループ(XRISM Collaboration、以下「研究グループ」という)が超巨大ブラックホールから吹く光速の20〜30%の速度の風を観測したところ、従来考えられていたような滑らかな構造の風ではなく、少なくとも5種類の異なる速度のガスからなる複雑な構造の風であることを発見しました。いわば、大量の“弾丸”が撃ち出されるように、ぶつぶつとした構造の風が吹いていると解釈できます。これは、XRISMの高い性能によって初めて発見できるものでした。さらに、この弾丸のような構造を考慮して推定すると、風は1年間に太陽の60〜300個分の莫大な量のガスを吹き飛ばしており、そのエネルギーは銀河規模で吹いている風*1より1000倍以上も大きいこともわかりました。
この結果は、「弾丸が間欠泉のようにたまにしか発射されない」もしくは「弾丸が銀河内ガスの隙間を縫って飛び出している」ということを示唆しており、従来の共進化の理論モデルの書き換えを迫るものです。今後のXRISMの観測結果に基づく研究によって、風が共進化に果たしてきた役割の理解が大きく進展すると期待されます。
用語解説
*1 銀河規模で吹いている風:
主に電波や赤外線で観測される、数千光年程度に広がった風。銀河バルジ(銀河の中心にある膨らんだ部分)に匹敵する大きさを有する。今回観測されたX線の風がブラックホール近傍 (PDS 456の場合は0.1光年よりも小さな規模) のみに存在するのとは対照的である。
論文情報
雑誌名 | Nature |
---|---|
論文タイトル | Structured ionized winds shooting out from a quasar at relativistic speeds |
著者 | XRISM Collaboration |
DOI | 10.1038/s41586-025-08968-2 |
URL | https://www.nature.com/articles/s41586-025-08968-2 |