有害赤潮プランクトンの活性酸素放出と光合成の関係解明-魚毒性診断技術の確立に向けて-(大学院理工学研究科 西山佳孝教授)
2024/9/26
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ポイント
- 有害赤潮プランクトンのシャットネラは養殖業に甚大な被害を及ぼしています。シャットネラが細胞外に大量に放出する活性酸素は、魚毒性と高い相関関係にあります。
- 魚毒性の高い株では、光合成で作られる還元力を使って活性酸素を産生しています。活性酸素の産生は、光合成能力の維持や競合生物の排除など赤潮形成にとって様々なメリットがあります。
- 活性酸素の産生量は、光合成の制御を受けるために、光などの環境条件の影響を多大に受けると考えられます。
概要
埼玉大学大学院理工学研究科の西山佳孝教授の研究グループは、水産研究・教育機構水産技術研究所と共同で、高い魚毒性を有する有害赤潮の原因プランクトンのシャットネラについて、魚毒性の原因の可能性がある活性酸素の大量放出が、光合成能力を強光から保護する仕組みに関わっていることを明らかにしました。赤潮の魚毒性がどのような条件で高くなったり低くなったりするのかはまだ詳細が解明されていませんが、本研究成果はその仕組みの解明へ向けた重要な知見となります。
本成果は、2024年9月13日に有害・有毒藻類専門誌『Harmful Algae』で公開されました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1568988324001458
論文情報
雑誌名 | Harmful Algae |
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論文名 | Production of extracellular superoxide contributes to photosynthesis via elimination of reducing power and regeneration of NADP+ in the red-tide-forming raphidophyte Chattonella marina complex 赤潮形成藻シャットネラ・マリーナにおける細胞外スーパーオキシド産生は還元力の排出とNADP+の再生で光合成に寄与する |
著者 | Koki Yuasa, Takayoshi Ichikawa, Yuma Ishikawa, Haruhiko Jimbo, Maki Kawai-Yamada, Tomoyuki Shikata, Yoshitaka Nishiyama* (*責任著者) |
DOI | 10.1016/j.hal.2024.102712 |
URL | https://doi.org/10.1016/j.hal.2024.102712 |
用語解説
(1) 赤潮
海でプランクトンが大量に増殖して、海水が着色する現象を言います。河川等からの栄養塩流入がある閉鎖的な沿岸域で発生することが多く、有害な植物プランクトンによる赤潮は魚介類のへい死を引き起こし、養殖業に甚大な被害を及ぼしています。
(2) 植物プランクトン
光合成を行う水中に漂っている微生物のことを示し、大きさは1 µmから1 mm以上のものまで多種にわたり、鞭毛などを使用して自身で遊泳できる種類もいます。微細藻類とも呼ばれます。
(3) シャットネラ
ラフィド藻に属する海洋性の植物プランクトンで、 西日本を中心とした沿岸域で赤潮を形成します。極めて魚毒性が高く、高密度化すると養殖している魚類をへい死させ、甚大な漁業被害を及ぼします。
(4) 魚毒性
水中に存在する成分が、魚類のへい死や障害を引き起こす毒性のことを言います。
(5) スーパーオキシド
酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものの総称を活性酸素と言い、スーパーオキシドはその内の一種です。酸素分子に一電子が渡り、不完全に還元されることで生成されます。様々な生体分子を酸化して傷害を与えます。
(6) NOX
スーパーオキシドを産生する酵素NADPH oxidaseの略称。植物プランクトンから哺乳類まで幅広い生物が持っています。殺菌作用を持ち、動物では免疫機能として働きます。細胞内のNADPHから酸素分子へ還元力を受け渡すことでスーパーオキシドを生成します。
(7) 光合成
光を利用して糖などの生体に必要な有機物を作り出す反応。光化学反応では、光エネルギーを利用してATPと還元力であるNADPHを生産します。炭酸固定反応では、光化学反応で生み出されたATPとNADPHを利用して、二酸化炭素から糖を合成します。また、光化学反応では水を分解して酸素を生み出すことで、人類を含む地球上のすべての好気生物の呼吸を支えています。
(8) NADP+の再生
生体内のあらゆる化学反応の還元力として利用されるNADPHは、別の分子に還元力を受け渡すと、酸化型のNADP+に変化します。光合成の光化学反応では、水から引き抜いた電子をNADP+に受け渡すことでNADPHを生成しています。光合成反応が円滑に進むためには、NADP+を枯渇させないようにNADPHからNADP+を再生することが重要です。
(9) 還元力の排出
生体内で還元力が蓄積すると酸素分子を不完全に還元してしまい、活性酸素が多量に生成して酸化ストレスが生じます。その結果、多くの生体分子がダメージを受けてしまいます。特に、光合成では、強光が当たると還元力が大量に作られるため、過剰な還元力を排出する必要があります。還元力を持った活性酸素を細胞外へ放出することは、余分の還元力を排出する機能と言えます。