埼玉大学-埼玉県立大学 共同研究発表会を開催しました
2025/10/17

埼玉大学と埼玉県立大学は、10月3日(金)に「共同研究発表会」を埼玉大学総合研究棟シアター教室で開催しました。
両大学は2022年3月に「包括連携に関する協定」を締結し、それに基づいて「共同研究に関する覚書」を取り交わしています。この枠組みにより、両大学の研究者による学術の発展と社会貢献をめざし、共同研究を最長2年間支援するプログラムを2022年度から実施しています。
本発表会では 、これまでの取り組みの歩みを振り返るとともに、今後の展望を見据えることを目的として開催しました。これまで2年間にわたって支援を受けた4チームが成果を報告し、新たに採択された3チームが研究計画や共同研究に至った経緯を紹介しました。
発表会は、まず本学の坂井貴文学長 による「埼玉大学-埼玉県立大学との包括連携協定にかかる取組について」と題した講演から始まりました。坂井学長は、両大学が2022年に包括連携協定を締結して以来、教育・研究・産学連携の各分野で協働を深化させてきた経緯を紹介しました。さらに、学部・大学院での単位互換制度の実現や共同研究支援プログラムの継続的な推進により、理工・医療福祉・教育など多様な分野で成果が生まれていることを報告しました。加えて、共創の場形成支援プログラムへの共同申請やInland Japan Innovation Ecosystem (IJIE) への共同参画など、地域イノベーション創出に向けた挑戦を振り返りました。最後に坂井学長は、両大学の相互補完的な強みを生かし、地域課題の解決と持続可能な社会の実現に貢献していく決意を表明しました。

特別講演では、埼玉県立大学の濱口 豊太教授が「脳‐腸‐微生物相関に基づく消化器心身症非薬物療法-eHealth開発」と題して発表しました。過敏性腸症候群(IBS)をはじめとする消化器心身症の病態を、脳・腸・腸内細菌の相互作用から解明し、薬に頼らず症状を緩和するeHealth療法の開発を紹介しました。バイオフィードバック技術や運動・休息・食事を組み合わせたセルフマネジメント支援の有効性を示し、生活習慣改善による新たな治療の可能性にも言及し、研究成果を社会に還元し、心身両面から健康を支える実践的医療の発展に向けた意欲を示しました 。
続いて、休憩を挟みながら「成果発表セッション」と「ショートトークセッション」を行いました。
成果発表セッションでは、両セッションの合計7つの発表の概要は以下の通りです。

【成果発表セッション】※ アンダーラインを付した研究者が登壇
① Punpongsanon Parinya 准教授(埼玉大)・小池祐士 准教授(埼玉県立大)チーム
「医療従事者向け補助装置における3Dプリントパイプラインの開発」と題し、形状調整や再造形を容易にする設計支援システムとアルゴリズムを構築し、誰もが使いやすいデジタルものづくり環境の実現を目指した研究成果を報告
② 辻俊明 准教授(埼玉大)・久保田圭祐 特任助教(埼玉県立大)チーム
「治療現場へ応用可能な異常筋活動評価システムの開発」と題し、歩行や上肢運動の異常筋活動を解析し、筋電や加速度センサーを活用したリハビリ支援ロボット開発とその筋協調運動の改善、在宅リハビリへの応用可能性を報告
③ 岡本和明 教授(埼玉大)・小松睦美 准教授(埼玉県立大)チーム
「太陽系における生命起源物質の進化検証と関連教材の開発」と題し、隕石や小惑星試料を用いた分析を通じて生命起源物質の進化を検証し、地球内部環境を再現した加熱実験の成果、ならびに太陽系形成を学ぶハンズオン教材を開発し科学教育への展開について報告
④ 大澤優輔 助教(埼玉大)・久保田章仁 准教授(埼玉県立大)チーム
「地域在住高齢者の着衣嗜好の違いによる、歩数・生体情報・主観的心理への影響」と題し、地域高齢者を対象に、着衣や気候による温熱的快適感が歩数や生理指標、心理状態に与える影響を調査。快適性と健康行動の関連を明らかにする研究の進捗・方針を報告
【ショートトークセッション】
① 乙須拓洋 准教授(埼玉大)・村田健児 准教授(埼玉県立大)チーム
「細胞を鍛え、組織を強く。健康を、創造する ―細胞レジリエンスから始まる組織構築」と題し、運動が軟骨細胞の炎症耐性を高める仕組みを解析し、細胞膜流動性に着目したストレスに強い「レジリエント軟骨細胞」の創出を目指す研究を紹介
② 小林貴訓 教授(埼玉大)・木戸聡史 准教授(埼玉県立大)チーム
「マスクを用いた呼吸計測手法の開発とスポーツトレーニング・呼吸リハビリテーションへの応用」と題し、日常用マスク表面の温度変化から呼吸を非接触で計測する手法を活用し、VRコミュニケーションやリハビリ支援への応用可能性を検証するとともに、日常生活での呼吸データ取得・健康管理への展開を目指す研究を紹介
③ 高橋朋子 准教授(埼玉大)・金村尚彦 教授(埼玉県立大)チーム
「マイオカインに着目した運動の軟骨変性抑制効果のメカニズム解明」と題し、運動時に筋から分泌されるマイオカインが軟骨細胞に与える影響を解析し、変形性膝関節症の進行抑制メカニズムを探索するとともに運動模倣モデルと遺伝子解析を通じ、個別化運動療法や新たな理学療法の創出を目指す研究を紹介


最後に、埼玉県立大学の林裕栄学長より閉会の挨拶を行いました。 林学長は、埼玉大学と埼玉県立大学は学科構成が重ならず、学際的研究を進めるうえで理想的な関係にあると述べました 。発表を通じて、理工学・医療・教育といった多様な分野が融合し、高齢社会を含む人々の生活に貢献する有意義な研究が進展していることに強い期待を寄せられました。また、生命の起源を探る研究や子どもたちへの科学教育など、未来への希望を感じる取り組みが多くあったと振り返り、今後は教育分野でも連携をさらに深め、両大学の協働が一層発展することを期待して挨拶を結ばれました。

本発表会を通じて、両大学の強みを掛け合わせた多彩でユニークな共同研究の展開が共有されました。理工学と医療・福祉を架橋する研究、高齢社会対応や次世代育成に資する研究など、学科構成の異なる両大学だからこそ実現できた新たな知の創出が進んでいます。すでに共同研究チームによる外部資金獲得や、教育・研修現場での成果活用も始まり、共同研究支援プログラムの意義と効果の広がりを実感することができました。今後も包括連携協定のもと、両大学の連携を一層深化させ、継続的な共同研究支援を通じて学術の深化はもとより地域社会に貢献してまいります。