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交流磁場の生体作用の一端を解明し、交流磁場から誘導される電場の可視化に成功(大学院理工学研究科 綿貫啓一教授 共同研究)

2021/8/10

概要

埼玉大学大学院理工学研究科 綿貫啓一教授(先端産業国際ラボラトリー・所長)の研究グループは、フィンランド・アールト大学(Aalto University)電気工学部 Ilkka Laakso助教授、および株式会社ソーケンメディカル 石渡弘美社長との共同研究により、交流磁気治療器から出る50 Hzの磁場(交流磁場)の血行改善作用を裏付けるいくつかの科学的根拠を見出しました。なかでも筋疲労後のヘモグロビン酸素化指標の回復、副交感神経活動の亢進、および血管内皮機能の亢進は、特筆すべき交流磁場の作用であることを明らかにしました。さらに、交流磁場によって誘導される電場に関しても、有限要素法によるシミュレーション解析を実施し、可視化に成功しました。

本研究成果は、2021年8月5日(日本時間2021年8月6日16時)、米オンライン科学誌『PLOS ONE​』で発表されました(DOI: 10.1371/journal.pone.0255242)。

図1  ヘモグロビン酸素化指標の推移

図2  血流依存性血管拡張反応FMDの推移

図3 ダブルコイルの交流磁場によって生じる誘導電場(左図:前腕曝露、右図:頸部曝露)

ポイント

・腕を動かさないように固定し、前腕部に周波数50 Hz、最大表面磁束密度180 mTの交流磁場を使用(前腕曝露)すると、前腕の尺骨動脈の血流速度が増加しました。
・前腕の筋肉に負荷をかけ、その部位に交流磁場を使用(前腕曝露)すると、筋疲労により増加したヘモグロビン酸素化指標変化率がより早く減少し、元の状態に近づきました(図1)。このことは、筋疲労の回復が早まったことを示唆しています。
・首の背部に交流磁場を使用(頸部曝露)すると、副交感神経活動の指標であるHF成分が増加しました。
・上腕部に交流磁場を使用(上腕曝露)し、上腕動脈の血流依存性血管拡張反応を示すFMDを測定したところ、FMD値が増加しました(図2)。
・ダブルコイルの交流磁場によって生じる誘導電場の推定値は、曝露条件に応じて100〜500 mV/mであることを示しました(図3)。この値はコイル直下で最大値を示しますが、その値は国際的な安全基準に照らしてみても、特に問題はないと考えられます。

研究の背景と方法

コイルに電流を流して電気的に磁場を発生させ、その磁場を利用する電気磁気治療器は、交流磁気治療器とも呼ばれ、「こりと血行の改善効果」があり、クラスⅡの管理医療機器として40年以上もの間、多くの人々に使用されることで、その効果は経験的に実証されてはいますが、その作用メカニズムは十分には解明されていません。本研究は、「健常成人の血行動態、ECG、および血管内皮機能に及ぼす交流磁場の影響」と題し、ダブル​ブラインド・ランダム化比較試験により、ドップラー超音波血流計、機能的近赤外分光(fNIRS)装置、テレメトリー式心電計、血管内皮機能FMD測定装置等の生体計測装置を用いて、交流磁場のさらなる生体影響に関する詳細な検証を行いました。さらに交流磁場によって誘導される電場に関しても、有限要素法によるシミュレーション解析を実施し、可視化を試みました。

研究結果と考察

交流磁場を前腕部、上腕部、あるいは頸部に曝露し、前腕の尺骨動脈の血流速度を測定しましたが、磁場曝露が前腕部の血流計測部位である尺骨動脈に近いほど、その血流速度が増加し、用量依存性のある傾向がみられました。交流磁場により血流速度が増加した結果は、筋肉の凝りや疼痛を引き起こす代謝老廃物や疼痛物質を排除するのに役立つ可能性があると考えられます。交流磁場によるHF成分の増加は副交感神経活動の亢進を意味し、FMD値の増加は血管内皮細胞由来の血管拡張物質である一酸化窒素(NO)が増加したことを意味しています。ダブルコイルの交流磁場によって誘導される電場強度は、例えば前腕曝露の場合では、前腕の遠位部に配置されたほうのコイル近傍で最も高く、その位置的な特性が関与していることが示唆されました。

まとめと今後の展開

交流磁場の血行改善作用を裏付けるいくつかの根拠を見出し、交流磁場から誘導される電場を可視化しました。今後は、さらなる交流磁場の作用メカニズムの解明を目指して、血管拡張、疲労、疼痛に関連した生体内代謝物質の非侵襲的リアルタイム計測の可能性を探る予定です。今回の被験者は健常成人の男性のみでしたが、今後は女性や高齢者を対象に含めた評価研究を行う予定です。

論文情報

掲載誌 PLOS ONE
論文名 A 50 Hz magnetic field affects hemodynamics, ECG and vascular endothelial function in healthy adults: A pilot randomized controlled trial
著者名 Hideyuki Okano, Akikatsu Fujimura, Tsukasa Kondo, Ilkka Laakso, Hiromi Ishiwatari, Keiichi Watanuki
DOI DOI: 10.1371/journal.pone.0255242

用語解説

(1) ダブル​ブラインド・ランダム化比較試験:ダブル​ブラインドとは、実施している薬や治療法などの性質を、測定者からも被験者からも不明にして行う方法である。プラセボ効果や測定者バイアスの影響を防ぐ意味がある。ランダム化比較とは、研究の対象者を2つ以上のグループにランダムに分け(ランダム化)、治療法などの効果を検証する方法。 ランダム化により検証したい方法以外の要因がバランスよく分かれるため、公平に比較することができる。

(2)fNIRS(functional NIRS、機能的近赤外分光法):近赤外光を用いて、組織中の酸素化ヘモグロビン(oxyHb)と脱酸素化ヘモグロビン(deoxyHb)の近赤外吸収スペクトルの違いから、各濃度を非侵襲で測定する手法。

(3) FMD(flow-mediated dilation、血流依存性血管拡張反応)測定:腕を圧迫し血管内皮細胞から生成される一酸化窒素(NO, nitric oxide)によって、開放後の動脈の拡張の程度を超音波で測定する方法であり、血管内皮機能を評価することができる。NOには、血栓やプラークの形成を阻止し、血管を拡張させる作用がある。

(4)誘導電場:磁束密度が時間的に変化している変動磁場を曝露した場合に、ファラデーの電磁誘導の法則にしたがって生じる電場である。

参考URL

先端産業国際ラボラトリーウェブサイトこのリンクは別ウィンドウで開きます

大学院理工学研究科 綿貫啓一教授このリンクは別ウィンドウで開きます

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