水圏環境工学と防災・減災との調和
社会、グローバル、産業、技術、環境、資源、防災、生物、生態、地学
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田中 規夫

大学院理工学研究科 埼玉大学環境科学研究センター 教授
工学博士:水圏環境工学、応用生態工学、水防災・減災工学

経 歴
1991年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
民間企業を経て、2000年より埼玉大学
2007年〜現職

著 書
「生物圏の環境」(2007年):分担、東京電機大学出版局
「水環境ハンドブック」(2006年):分担、朝倉書店
「川の百科事典」(2009年):分担、丸善
“Wetlands for Tropical Applications: Wastewater Treatment by 
Constructed Wetlands”(2011年):共編・分担、Imperial College Press
「土木学会水工学委員会、日本のかわと河川技術を知る」(2012年12月):
(利根川)編集委員会(委員長:中央大学・山田 正)、田中は編集委員で分担
「津波と海岸林―バイオシールドの減災効果―」(2013年):分担、共立出版
「スリランカを知るための58章」(2013年予定):分担、明石書店
など

水圏の複雑な環境システムを解き明かし、水圏の防災・減災対策を探究する。

〜例えば津波被害を減災するのに海岸林はどのくらい効果があるのか、など〜


 河川や海岸線など水圏ではさまざまな時間・空間スケールの水理現象(流れ・波など)と生物現象(個々の生物の営みや群としての遷移)が複雑に絡み合った環境システムを構成しています。そのシステムが水理的撹乱(洪水・津波など)と人為的撹乱(開発に伴う水理環境の変化、汚染など)に対して、どのような反応・影響をおよぼすのかを知ることは、持続的な社会を構築していくために重要になってきています。
 私の研究室では、マングローブやラグーン(潟湖)環境に与える撹乱影響の緩和方法、ダム下流河川の水生昆虫の動態、河道内樹林化(洪水撹乱頻度の減少や
		
強度の低下などによって河道内に樹木が繁茂し、流下能力の減少や偏流が生じる問題)への対策、航走波に対する河岸植生帯(ヨシなど)の保護、抽水植物を用いた水質浄化、の研究などを行っています。特に、インド洋大津波の後から、砂丘、ラグーン(潟湖)や樹林帯をバイオシールドと定義し、津波時の被害を把握するとともに、その減災効果を定量評価する手法の開 発と、バイオシールドの持続可能な設計・運用方法を、自然が急速に劣化しつつある南アジア・東南アジアの開発途上国に提案しています。東日本大震災における津波被害を受けて、日本でも堤防を越えた津波に対して、砂丘や海岸林の減災効果を期待する声が高まっています。

PROCESS


1.注目している現象や課題の時間スケール・空間スケールにおいて支配的な物理的・化学的・生物的要因を探る。
(水理現象が複雑であればあるほど興味が増す)		
		
2.現地調査や水理実験、数値解析など、どの手法の組み合わせがその現象を解明し課題解決になるかを決定する。
多くの場合、仮説を設定し、その仮説を検証するための研究計画を立てる。

3.実験装置の作成・実験手法の決定、数値解析モデルの作成、現地調査を行う。
それぞれにさまざまなテクニックが存在する。
		
4.仮説の検証を行う。仮説どおりにならないほうが新たな発見があったりする。
5.対策・設計方法・計画論の提案

■ 研究領域の全体イメージ

研究領域の全体イメージ


環境共生型の技術開発として、海岸部では海岸林・砂丘・堤防の組み合わせによる津波の減衰、流木による二次災害の実態解明と対策検討、減災型都市構造の提案、下流河川では航走波による河岸植生帯の侵食防止、中流河川では洪水特性と河道内植生動態の関連性を解明することに基づく植生・河道維持管理方法の提案、上流河川ではダムの運用と河床材料・水生昆虫の関係性解明、に関する研究を行っています。

■ 海岸林の持続的管理に向けての提案

海岸林の持続的管理に向けての提案図1


植林そのものは、在来種で、力学的な強さを発揮するためには混植がよいこと、
長期的には社会林業など、住民が維持管理していく動機を高める必要があることなどを提案
		海岸林の持続的管理に向けての提案図2

■ マータラ植林プロジェクト(埼玉大学・ペラデニヤ大学・マータラ市で共同)

スリランカ・マータラ市における植林PJ
今後の管理を地元の僧侶に委託 アジアアフリカ学術基盤形成事業:スリランカの研究者や、発表で参加した日本人大学院生たち
▲ 津波の減災に資する海岸林の構築に関するパイロットプロジェクトを行っていることを伝える看板 ▲ 埼玉大学、ペラデニヤ大学、マータラ市の共同で津波対策に資する海岸林の植林を行っている活動を伝える新聞

■ 阿武隈川を遡上する津波の数値シミュレーション(砂嘴による回折と堤防からの越流)

阿武隈川を遡上する津波の数値シミュレーション図


 東北地方太平洋沖地震津波では、各地で津波が河川を遡上し、海側から来た津波と川側から来た津波に挟まれる地域も存在するなど深刻な被害が発生した。
 上の図は阿武隈川を遡上する津波のシミュレーション結果で、川側からの津波が堤防からあふれるときの状況を示している。この地点では場所により被害状況が大きく異なり、砂嘴、橋梁、河川の蛇行など、河口付近の河川の構造が津波被害に大きな局所性をもたらしたと推定される。原因を究明し、似たような河川構造を持つ地点を指摘していくことも工学においては、重要な役割である。

■ 様々な調査活動

津波被害状況の現地調査
津波遡上時の堤防と海岸林の機能限界を調査 河道内樹木の倒伏状況調査:流木発生条件を知るための基礎資料を得る
上流域河川の水生昆虫調査:出水と水生昆虫の動態を調べる 津波遡上時の海岸林の役割を調査、数値解析でその効果を定量評価(→今後の都市計画に役立てる)
研究者一覧