07 川端 博子 生活 教育 文化
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  PROFILE 研究者総覧
川端 博子

教育学部 家政教育講座
教授 博士(被服環境学)

経 歴
1983年      お茶の水女子大学家政学研究科修了
1983〜1985年 お茶の水女子大学家政学部助手
1985〜1998年 東京都立立川短大(改組により東京都立短大)助手
1998年      東京都立短大講師、2000年助教授 
2002年   8月   埼玉大学教育学部助教授
2004年12月 〜 埼玉大学教育学部教授 

著 書
被服材料学(分担) 実教出版 1990年
衣生活の科学(分担) IKコーポレーション 2006年 
衣生活論(分担) 建帛社 2010年
家庭基礎・家庭総合(分担)高等学校検定教科書 東京書籍 2007年〜

快適な衣生活の実現を求めて 〜科学的見地から衣生活の不自由さを取り除く〜


 私たちは、この世に生まれて以来衣服を身につけて過ごし、衣服は身体の一部のようなものです。衣服には、暑さ寒さをしのぎ、危険から身を守る役割があります。また、私たちは場面に応じて服を選んで着たり、他人の服装をみて職業や人となりを判断したりすることもあります。このように身近な存在でありながら意識されることが少ないですが、上手く用いることで、心身ともに快適な生活を送る助けをしてくれます。
 店頭には、たくさんの衣服が並び、一般にはあまり不自由なく衣服を入手し、不都合なく着脱することができます。しかし、病気を患ったり、障がいを有したりすると状況は大きく変化します。		
 私は衣服の快適性をテーマに取り組んできました。近年はより多くの人にやさしい衣生活の実現を目指す研究に着手しています。衣生活上の不自由さを少しでも取り除き、誰もが快適な衣生活ができるようお手伝いをしたいと考えています。
 教育学部に赴任して以来、針と糸を使ったものづくり教育にも取り組んでいます。裁縫技能は日常生活において必要なくなりつつありますが、教師となる学生そして子どもたちへ、ものづくりの楽しさを伝え、ものづくりの今日的意義を明らかにし、さらには着る楽しさを伝える体験学習づくりに取り組んでいます。

PROCESS


1.出発点
学生時代、人に関わる研究がしたいと考えて恩師に相談したところ、衣服圧の研究を勧められる。その後、衣服の拘束性一筋に取り組む。		
		▲被服学実験の授業風景
▲被服学実習で製作した作品のファッションショー

2.ターニングポイント(1)
職場の改組を機に、都市と生活を軸とする研究に着手する。都市はファッションの発信地であるとともにさまざまな人たちが密に住む地域ととらえ、子ども・高齢・障がいのある人たちの衣服についても対象とする。

3.ターニングポイント(2)
教育学部に赴任して、家庭科教育に関わるようになる。ものづくり学習の意義を明らかにする研究、作って着る楽しさを学生や子どもたちに伝える授業研究を行っている。きもの文化に関心を抱き、国際交流にも関わるようになる。

4.研究の広がり
消費者の視点から出発した快適性の追究は、企業と共同での商品開発にも
およんでいる。1〜3を並行して継続させている。

衣服の快適性の追究


衣服の快適性は、運動機能性、温熱的快適性、肌触りの良さの3つの要因からなりたちます。
学生時代より衣服の圧迫性評価に関する研究をスタートさせて以来、衣服の快適性全般に関わる研究に取り組んでいます。


衣服の拘束性に関する研究
 衣服による人体への圧迫の程度を衣服圧で評価します。衣服圧の算出方法を検討し、各種衣服の拘束性について評価してきました。
		
研究例
・ 衣服圧の算出法 
・ オーバーコートによる肩部衣服圧の試算
・ 補整下着の衣服圧分布と動作抵抗性
・ ジーンズの衣服圧など
		
裏地に関する研究
 裏地は、滑りにより動作性を向上させる・肌触りを良くする・透けを防止する・保温性を保つことを目的として用いられています。裏地の特性が着用感にどのように影響するかについて調べてきました。
		
研究例
・ ストレッチ素材にもふさわしい裏地とは?
・ 汗をかいても肌にはりつきにくい裏地とは?
・ 薄地フレアスカートの軽やかな動きを
 保持する透け防止効果の高い裏地とは?
		
夏用肌着の快適感
 2005年にクールビスが提案され、夏用肌着として、綿100%の製品の他、化学繊維を組み合わせたり、機能性繊維による高い吸水性や吸湿性を有するものなどが各種開発されています。
 着用時の衣服内温度・湿度と肌触りとの実験をもとに、夏にふさわしい肌着の要因について考察しています。

ユニバーサルな衣服の実現に向けた研究


授乳期の女性の衣生活支援
 妊娠による体型変化や出産後の母乳授乳など、女性の衣生活は大きく変化しますが、これまで一時のこととして見過ごされてきました。衣生活の支援によって育児の負担が少しでも軽減できればと考えています。
		
乳がん術後女性の衣生活の実態
 乳がんの罹患は女性16名に1人で全がんの中で最多の割合であり、50歳前後の人に発症が多いのも特徴です。術後の入院期間も短く、簡単に捉えられがちです。しかし、治療によって身体の外観に影響をおよぼすことから、衣生活への支障が予想されますが、これまでほとんど研究がなされてきませんでした。
 補整下着の不具合と着装の実態を整理したところ、不都合は多岐の範囲におよぶことが分かりました。QOLやボディイメージの低い人ほど積極的に工夫をしており、心身両面から衣服の効果が示されています。
		乳がん術後の女性は着装を工夫しています。

研究例
・速やかに授乳ができる授乳用下着
・温湿度からみた補整下着内の衛生状態
・授乳用補整下着の耐洗濯性
・夜間授乳の温熱的実態(進行中)

手指の巧緻性に関する研究


 現代人の手指が動かなくなっていることはかなり以前より指摘されています。1995年より、糸結びテスト(5分間に10cmの木綿糸をいくつ結んでつなぐことができるか)で実態を把握しており、小学5年生から大学生まで1万人近いデータを得ています。残念なことに糸結びテストの成績は徐々に低下し続けています。
 手指を使うことは脳の発達を促し、ヒトは文明を発達させてきました。手指を使うことが広い方面の活動意欲を引き起こし、ひいては創造性や思考力に結びつく可能性があるのではないかと考えています。手指の巧緻性と、幼少期の遊び体験、自己効力感や学力などとの関係を調べ、手指の巧緻性を向上させるものづくり学習の今日的意義を明らかにしています。
 衣服においても家庭で作るものから購入するものとなり、針と糸を使う機会は稀となりましたが、男女を問わず生徒たちが熱中して取り組む姿を見ると、日常的に手指を使う機会が少ない今日こそ、被服製作学習は意義があると考えています。
		▲ 糸結び数の時代変化(小学校 6年生の例)

きもの文化の伝承と発信

▲SFSUにて16年ぶりに再会した先生 ▲附属中での授業風景 
 きものは日本の誇るべき文化の一つです。若い世代にきものの良さに気づいてもらうため、家庭科の授業でゆかたの着装体験ができるよう、さまざまな支援をしています。学習後の生徒たちは、きものの知識と興味関心が大きく向上することが明らかになっています。
 海外でもゆかたの着装ワークショップを開催し、きものを通した文化交流を行っています。過去3年間、横浜国大他3大学の教員・学生とともに、上海、ラフバラ、サンフランシスコに出向き、中学生から一般人まで300名以上にゆかたの着装を体験してもらい好評を博しています。きものを通した文化交流の効果を実感しています。
▲留学生に帯結びを指導するゼミ生
研究者一覧