11 加藤 秀雄 中小企業論
経済、経営、グローバル、産業、技術
  PROFILE 研究者総覧
加藤 秀雄

		経済学部 経営学科
		中小企業論 教授

経 歴
1974年 法政大学工学部経営工学科卒業
1974年 トーヨーサッシ株式会社社員
1977年 東京都商工指導所(都庁)職員
1998年 九州国際大学経済学部教授
2001年 福井県立大学経済学部教授
2007年 大阪商業大学総合経営学部教授
2009年 埼玉大学経済学部教授

著 書
『変革期の日本産業−海外生産と産業空洞化−』新評論、1994年
(中小企業研究奨励賞経済部門本賞受賞)
『ボーダレス時代の大都市産業』新評論、1996年
『地域中小企業と産業集積−海外生産から国内回帰に向けて』
新評論、2003年
『日本産業と中小企業−海外生産と国内生産の行方』
新評論、2011年

中小企業から見通す、日本のものづくり現場の将来 〜フィールドワークで現場を見続け40年近く〜


 日本のものづくり現場を歩き続けて40年近くが経ちます。機械加工の現場で職人さんがベルトがけの旋盤で鉄を削っている作業を食い入るように見ていた頃が懐かしく思い出されます。かつての町工場は、仕事の当てがなくとも最新鋭の機械設備を導入するなど活力に満ちあふれていました。
 そうした情景が、いつの頃からか様変わりしたように思えます。今は、頑張れば仕事が取れるという経営環境からは遠のいています。
 国内でナンバーワンになろうとも海外で調達され、仕事が入らないようになって
		
何年経つでしょうか。そうした時代の変化の中で、私の関心が国内生産の維持に向けられていったのはごく自然のことかと思います。
 85年のプラザ合意以後に本格化する日本産業の海外生産。そしてバブル経済の崩壊以後の国内生産の量的縮小基調の下で、国内の中小企業の存立の場が縮小し続けています。そうした困難をどのように跳ね返していけばいいかを、中小企業と大企業の製造現場に立ち、探り続けているというのが私の研究のひとつです。

PROCESS


1 研究の出発点
すべては中小企業の方々との交流から始まっています。
いつも、彼らがどのような問題に直面しているのか、それをどのように解決しようとしているのか、また解決できているのかということが頭のどこかにあります。		
		
4 現場の声に耳を傾ける
可能な限り企業調査を重ねることで、頭で描いていた仮説を一つひとつ検証するとともに、訪問したことで新たに浮かび上がってくる研究課題の検証に踏み込んでいくことになります。次から次と課題が追いかけてきます。

2 中小企業の訪問
中小企業の訪問は、特定のテーマに沿って実施するものではなく、また元気のいい企業を対象とするものではなく、地域、産業分野に関わりなくさまざまな企業を訪問することを心がけています。
		
5 各種データとの整合性の確認
こうした企業調査と並行的に行うのが、数多く公表されている統計データ、各種調査結果の確認です。事例研究は、個別企業の行動を示すものであり、そのことをもってすべてを説明することはできません。その意味で、基礎的な各種データとの関連性を整理することは不可欠になります。

3 テーマの絞り込み
ある日、特定のテーマに強い関心が向けられたとき、企業訪問はテーマに即した企業調査へと変化します。そこでは、中小企業にこだわることなく、大企業を含めて訪問企業を選定していくことになります。		
		
6 まとめと次なる課題
そして、積み重ねてきた事例研究と各種データ等をまとめることになります。そのまとめは、論文であったり、一冊の研究書であったりします。でも、それらのまとめは、ある意味過去のことで、私の関心は次の課題に移っています。今日も、新たな課題にどのように立ち向かうかで頭がいっぱいになっています。

■ わが国の海外生産比率の推移

▲ 海外生産比率の推移 (資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」より作成)


 日本産業の海外生産比率は1985年のプラザ合意以降、ほぼ拡大を続けていることが認められます。
 国内生産の回復の遅れに対して、海外生産の立ち上がりのスピードを考慮すると、海外生産比率は再び拡大することが予想されます。

■ 製造業現地法人の日本との輸出入の推移


 現地法人の全仕入高に占める日本からの部品、素材等の仕入高の割合は、80年代後半において、50%前後であったが、ほぼ年を経るにしたがって、比率を下げ09年度においては30%を割り込こんでいます。
 こうした日本からの仕入高の割合の低下については、部品調達の現地化を示唆していますが、日本からの調達量(金額ベース)は減少していないことに留意する必要があります。

▲ 製造業現地法人の日本との輸出入の推移(資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」より作成)

▲ 日本輸出入に占める製造業現地法人の日本との輸出入割合(資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」より作成)

■ 94年当時に海外進出していた中小企業の現状


▲ 94年当時の海外生産工場(中小企業)の現在(資料:東京都『都内製造業の海外進出動向に関する調査報告書』の内部資料に基づく追跡調査により作成)

■ 最近の関心事

▲ 製造業における規模別の海外生産比率 (資料:中小企業白書(2010年版)より作成)


 2011年夏に、自動車、電機に代表される機械産業の量産領域の国内外生産の行方をテーマにした『日本産業と中小企業』を上梓しました。限られた紙幅の中では、日本産業と中小企業のもう一つの発展場面である非量産領域の国内外生産について書くことができませんでした。出版社に原稿を渡した時は、一種の安堵感が漂うのですが、しばらくすると非量産領域をどう取り扱うかが頭の大半を占めていくことになります。とはいえ、すぐにテーマに即した産業分野を選び出すことができず、相変わらずの当てもない中小企業訪問を繰り返していましたが、突然、工作機械産業と半導体製造装置産業を訪問する機会が得られ、非量産領域の研究がスタートすることになりました。
 はたして、2年ほどで何かしらのまとめができるのか、まだ明確な研究の姿は描けていませんが、今それが私の最大の関心事になっています。

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