4複雑化し多様な ニーズ 埼大は 地 域志 向型 グ ロー バ ル教 育 目指す新しい国際協働教育モデル 柔軟で質の高い環境整備進む長沢 誠野中:本学は昨年度、文部科学省「大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業」(令和 6-11 年度)に採択され、「<地域共創−ダイバーシティ課題解決−レジリエント社会研究>の三位一体による実践的な多文化共生教育の全学展開」をスタートさせました。事業の柱は大きく分けて3つあります。1つ目は、大学の国際化の促進と多様化、2つ目はキャンパスで日本人学生と留学生がともに学ぶ多文化共修、そして3つ目が留学生の地域定着です。日本の大学の国際化は新しい局面に入り、日本と地域社会へのソーシャルインパクトが求められています。本学もこの課題に取り組む所存です。 本特集では、大学の国際化の現状、多文化共修の最新の動向、本学でのオンライン国際共修の実例、留学生の地域定着という4つの側面から担当の先生方にお話を伺いながら本学が目指す国際教育を説明したいと思います。野中 進野中:最初に長沢先生、世界における大学の国際化の現状をご説明いただけますか。長沢:世界の大学における国際化は、過去 20 年でその構造が大きく変化し、より多極化する傾向にあります。国際移動学生数は増加の一途をたどり、2001 年の約 210 万人から 2019年には 600 万人を超え、2030 年には 1200 万人に達すると予測されています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより一時的に停滞したものの、主要なホスト国で学生数が回復し、再び成長軌道に戻る兆しを見せています。 国際学生の主要なホスト国として、米国は依然としてその牽引役を担っています。しかし、カナダ、オーストラリア、英国といった国々も競争力を高め、上位 5 カ国で世界の国際学生の約半数を占めるという多極化が進んでいます。また留学先を決定する要因も、高等教育の質だけでなく、学費や奨学金、卒業後の就労機会へと多様化しています。 さらに、学生を送り出す側の動向にも大きな変化が見られます。2024 年にはインドが中国を抜き、世界最大の国際学生野中:ありがとうございます。ご指摘のあった世界の潮流の中で学生の教育、特に多文化共修の最新の動向はどうでしょうか。越智先生、お願いします。越智:COIL(Collaborative Online International Learning)は、ICT を活用してオンラインで協働学習を行う教育手法です。ニューヨーク州立大学が主導するCOIL Global network では世界 225 以上の大学が加盟し、共同のカリキュラム設計や国際共修が展開されています。 COIL は、異文化コミュニケーション力やデジタルリテラシー、協働力などのソフトスキル向上に効果があり、教員間の国際ネットワークの構築や多国間比較学習の促進にもつながります。派遣国となりました。インドでは若年人口の増加に対し国内の高等教育機関の受け入れ能力が不足しており、多くの学生が 海 外 留 学を選んで います。一 方、中 国からの 留 学 生 数 は2020 年以降減少傾向にありますが、これは中国国内大学の教育能力向上や経済状況が背景にあると見られています。 日本を含むアジア諸国も、新たな教育ハブとして影響力を増しています。例えば、日本は米国人学生の留学先として急速 に人 気 が 高まっており、2022−23 年 度 には 9,675 人 が日本に留学し、コロナ禍後、大幅な増加を記録しました。しかし、日本からの留学生数は回復していないなど、日本人学生の海外留学促進は課題となっています。 このように世界の国際化は複雑化しており、高等教育機関には、多様な学生層に対応し、変化する社会のニーズに応えることが求められています。その世界の潮流に対し、埼玉大学は地域課題とグローバル課題を関連付けて理解する「地域志向型グローバル教育」を通してグローバル人材の育成を目指しています。今後は COILと実留学の学習成果の違いや効果を定量的に評価し、双方の関連性の意義を明確にする必要があります。 マイクロクレデンシャルは、特定のスキルやテーマに特化した短期・集中型の学習形態で、学修成果はデジタルバッジなどで可視化されます。欧州ではこの形式を取り入れた短期の大学院プログラムが多数提供され、これらを段階的に積み重ねることで修士号を取得するスタッカブル(積み上げ型)制度が普及しています。 世界の大学では、Coursera や edX などの国際的なオンラインプラットフォームを活用し、世界中の学習者にリアルタイムかつ低コストで受講可能な科目を提供することで、教育の国際展
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