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X線望遠鏡eROSITAが巨大ブラックホールの目覚めをとらえた!(大学院理工学研究科天文学研究室 Malte Schramm特任助教 共同研究)

2021/5/13

1. ポイント

 マックスプランク地球外物理学研究所や埼玉大学などの研究者からなる国際研究チームは、eROSITA衛星を使った全天掃天観測などから、これまで静穏であった2つの銀河が準周期的爆発を起こしていることを発見しました。これらの銀河の中心核は数時間おきに銀河全体に匹敵するほどに明るくなっています。この周期的な増光は、おそらく銀河中心にあるブラックホールの周りを公転する天体によるものと考えられます。これらの銀河は比較的小さく、地球からあまり遠くないため、今回の発見は低質量銀河の中でブラックホールがどのように活発になるかを解明する手がかりになると期待されます。

 本研究成果は、英国の科学専門雑誌「Nature」 (2021年4月29日付)に掲載されました。

2. 概要

 クエーサーや活動銀河核(AGN)は、遠い宇宙の灯台と呼ばれることがあります。大量の物質が降着している大質量ブラックホールの中心領域の明るさは、天の川銀河のような銀河の明るさの数千倍にも達します。しかし、灯台とは異なり、活動銀河核は連続的に輝いています。

 今回、Nature誌に掲載された論文の筆頭著者である、マックスプランク地球外物理学研究所に所属する大学院生リカルド・アコーディアは、「eROSITAによる全天観測で、これまで静穏であると考えられていた2つの銀河に、ほぼ周期的で巨大なパルスのようなX線放射がみられることを発見しました。このタイプの天体はかなり新しく、これまでに知られていたのは、偶然発見されたものと、過去数年のアーカイブデータから見つけられたものの2例だけでした。この新しい種類の天体はX線特有にみられると考えられたので、eROSITAを使って無バイアス観測を行ったところ、すぐにさらに2つの天体を見つけることができました」と説明しています。

 eROSITA望遠鏡は、X線で全天を掃天観測しており、継続的に取得されたデータは、今回の爆発のような突発的な天体現象を探すのに適しています。eROSITAによって発見された2つの天体は、欧州宇宙機関のX線観測衛星XMM-Newtonおよび、国際宇宙ステーションに搭載されたX線望遠鏡NICERによる追観測結果とあわせると、いずれもわずか数時間の間に振幅の大きいX線変動を示しました。一方、埼玉大学が参画する光・赤外線天文学大学間連携による観測などからは、通常の活動銀河核と異なり、これらの天体に降着現象を示すスペクトルや光度変化が見られませんでした。つまり、先行研究で見つけられた2つの類似天体と異なり、eROSITAで見つかった今回の天体の母銀河は、ブラックホールの活動性をこれまで示していませんでした。

 eROSITAプロジェクトの研究代表者であるマックスプランク地球外物理学研究所のアンドレア・メローニ博士は、「これらの銀河は、活動していないブラックホールを伴う平均的な低質量銀河と考えられていました。eROSITAによる、この突発的で、かつ繰り返されるX線の爆発的な上昇がなければ、私たちはこれらの現象を見逃していたでしょう。」と説明しています。天文学者は、太陽質量の10万倍から1,000万倍という比較的低質量の超巨大ブラックホールのごく近傍を探査する機会を手にしたのです。

 eROSITAによって発見されたような準周期的な放射は、典型的には、連星系に由来して見られます。もしブラックホールの周りを公転する天体の存在がこのようなX線強度の爆発的上昇の引き金になっているとすれば、その質量はブラックホールの質量よりもはるかに小さく、恒星や白色矮星程度でなければなりません。そして、その公転する天体はブラックホールに近づく時に受ける大きな潮汐力で一部が破壊されているかもしれません。

 リカルド・アコーディアは、「このX線の爆発的な上昇の原因はまだわかっていません。しかし、最近までこのブラックホールの近傍は静穏であったので、これらの現象を引き起こすために、活動銀河に存在するような降着円盤がかつては存在していなくても説明できるでしょう」と述べています。今後のX線観測は、「公転する天体による爆発仮説」に制約をつける、もしくは否定することや、周期的に起こりうる変化を調べるのに役立ちます。また、新たに同様の天体現象が見つかれば、世界に分散した光赤外天文学大学間連携の望遠鏡で、連続的な光赤外線観測も可能となります。この特色は世界的に見ても特筆すべきことです。今後、このような天体は電磁波と重力波の両方での観測が可能と期待され、光赤外線天文学大学間連携による更なる観測からマルチメッセンジャー天文学の新たな道を切り拓くことになるでしょう。

eROSITAの全天観測で初めて発見された、準周期的爆発が見られた銀河の可視画像。NICERによって得られたX線の光度変化を緑色で重ねている。この銀河は2MASS 02314715-1020112と同定され、赤方偏移はz~0.05である。X線変動の最大から最小までの時間は約18.5時間。
Credit: MPE; optical image: DESI Legacy Imaging Surveys, Legacy Surveys / D. Lang (Perimeter Institute)

eROSITAの全天観測で2番目に発見された、準周期的爆発的が見られた銀河の光可視画像。この銀河は2MASX J02344872-4419325と同定され、赤方偏移はz~0.02である。この天体は、XMM‐Newtonによって得られたX線の光度変化をマゼンダ色で重ねている。X線変動の時間間隔が狭く、頻度も高く、平均的には約2.4時間である。
Credit: MPE; optical image: DESI Legacy Imaging Surveys, Legacy Surveys / D. Lang (Perimeter Institute)


 本研究成果は、英国の科学専門雑誌「Nature」 (2021年4月29日付)に掲載されました。(R. Arcodia et al. “X-ray Quasi-Periodic Eruptions from two previously quiescent galaxies”)
DOI number 10.1038/s41586-021-03394-6

参考URL

埼玉大学教育学部/大学院理工学研究科 天文学研究室ウェブサイトこのリンクは別ウィンドウで開きます

大学間連携による光・赤外線天文学研究教育拠点のネットワーク構築事業|OISTER Webこのリンクは別ウィンドウで開きます

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