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目視ではわからない顕微鏡動画を理論的に解析し、結晶化現象の前兆となる分子集団挙動の可視化に成功(大学院理工学研究科 吉川 洋史 教授)

2019/11/25

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の花崎逸雄准教授、埼玉大学の吉川洋史教授、奈良先端科学技術大学院大学の杉山輝樹客員教授らは、溶液中で分子が結晶化する過程について、レーザーを照射して生じる力で核生成の場所を操り、その過程を捉えた顕微鏡動画を解析することにより、動画の目視ではわからない核生成前の分子群の様子を可視化することに世界で初めて成功しました。ここで得られる知見は今後、多様な分子の結晶化が欠かせない創薬の産業や材料科学・生物・医学への応用が期待されます。

本研究成果は、The Journal of Physical Chemistry Letters (IF = 7.329)(11月21日付)に掲載されました。
論文名:Spatiotemporal Dynamics of Laser-Induced Molecular Crystal Precursors Visualized by Particle Image Diffusometry
URL:https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.jpclett.9b02571 このリンクは別ウィンドウで開きます

現状

溶液中の分子の結晶化は、物質の状態変化として物理学の基礎を成す極めて重要な研究テーマです。さらに、分子の立体構造を特定するために結晶化が必要なため、材料科学・生命科学や創薬産業など、基礎科学から産業に至るまで実用上でも重要です。しかし、結晶が現れる前は分子の集まりが液体の中を漂う状態であり、この時の分子の集まりは小さすぎて顕微鏡でも見ることができません。創薬や生命科学では多様な分子を結晶化する必要があるので、結晶化の難易度が分子の種類によって異なる謎を解くためにも、まさに結晶化が始まるその直前までの段階で分子の挙動を知ることが理想的です。

研究体制

本研究は、東京農工大学大学院 花崎逸雄准教授(工学研究院 先端機械システム部門)、埼玉大学大学院 吉川洋史教授と当時大学院生だった岡野和希氏、奈良先端科学技術大学院大学 杉山輝樹客員教授により実施されました。

研究成果

溶液にレーザーを照射することで光の力により分子群を集めて結晶が現れる場所を制御し、顕微鏡とカメラにより得られる動画データからブラウン運動の激しさを解析することによって、その動画を目視で確認するだけでは結晶が現れてから初めて変化が認識できるのに対して、結晶が現れる前からレーザーの力により溶液中の溶質分子から集まった状態が空間的にも時間的にも不均一なパターンを形成する様子を可視化することに世界で初めて成功しました(Fig.1参照)。顕微鏡の観察領域は一辺が60μm弱であり、溶液の種類や濃度や時間経過によって分子群が観察領域全体に広がっていたりレーザー照射の焦点近傍に集中していたりする様子が捉えられました。直接可視化したのはブラウン運動の激しさであるため、そこからおよその粘度を推定したところ、水溶液中で結晶核生成前の溶質分子群が形成する状態は、ハチミツに匹敵する高い粘度を持つことまでわかりました。

今後の展開

結晶化は、個々の分子の種類次第で難易度に雲泥の差があり、しかも原因については謎が多く残っています。結晶化直前までの分子クラスター群の動態、つまり分子が少数結合してできている微粒子が集団でどのようにふるまうのか、を明らかにすることにより、結晶化を制御するための技術開発に大きな進歩がもたらされると期待できます。例えば、医薬品となる化合物のほとんどに結晶多形、つまり同じ組成で異なる結晶構造が存在します。実際に望む構造以外の結晶多形が出現してしまうことにより、生産ができなくなることもあります。本手法により結晶化に至る過程を可視化すれば、欲しい結晶構造を作製する条件を最短で見つけることができ、医薬品業界に大きなインパクトを与えることになります。また、本研究の成果で真価を発揮した、蛍光色素でラベル付けすることなく高濃度粒子群の顕微鏡動画を解析して拡散係数の空間的な分布を解析する技術は、結晶化現象以外であっても、これまで高濃度や非染色の条件がボトルネックで観測できなかった多様な物質系の実測に基づく研究に役立つと考えられます。

Fig.1: 有機分子水溶液の光学顕微鏡像(上段3枚)と、それを含む顕微鏡動画を解析して検出した分子クラスター群の拡散挙動(下段3枚)。光学顕微鏡像では、画像のほぼ中央位置にレーザーを照射し始めてから19分時点で画像の中央に結晶構造が現れたのが確認できるが、それより前の時点から分子クラスター群が分布を変えながら存在していることがわかった。カラーバーは、拡散係数の対数を取った量であり、ブラウン運動の激しさを表している。画像サイズは57.6 × 55.8 μm2、その中の一辺55.8 μmの領域を解析した。本図はJ. Phys. Chem. Lett., Vol.10, pp.7452-7457 (2019)から許可を得て転載。

プレスリリースこのリンクは別ウィンドウで開きます

参考URL

吉川 洋史(ヨシカワ ヒロシ)|埼玉大学研究者総覧このリンクは別ウィンドウで開きます