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乾燥に適応するためのホルモン制御-乾燥ストレス応答に関わる植物ホルモン合成の制御因子の発見-(大学院理工学研究科の高崎寛則特任助教・高木優教授)

2018/11/6

概要

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター機能開発研究グループの佐藤輝特別研究員、篠崎一雄グループディレクター、バイオリソース研究センター実験植物開発室の井内聖専任研究員、埼玉大学大学院理工学研究科の高崎寛則特任助教、高木優教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の篠崎和子教授らの共同研究グループ※は、乾燥ストレス応答に必要な植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)[1] の合成を制御する転写因子[2]「NGA1」を発見しました。
本研究成果は、乾燥ストレス条件下における植物の初期応答の分子メカニズムを明らかにする研究の足掛かりになるとともに、乾燥ストレス耐性が向上した植物の作出につながると期待できます。
植物の乾燥ストレス応答を制御する植物ホルモンABAが合成されるためには、ABA合成酵素の鍵遺伝子NCED3 [3]の転写が活性化される必要があります。今回、共同研究グループは、シロイヌナズナが乾燥ストレス条件下において、転写因子NGA1がこのNCED3遺伝子を直接活性化することで、ABA合成を促進させていることを発見しました。本研究成果は、国際科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』オンライン版(11月5日付け:日本時間11月6日)に掲載されます。

図 NGA1遺伝子が機能しない植物では乾燥ストレス耐性が低下する

共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター
機能開発研究グループ
 グループディレクター 篠崎 一雄(しのざき かずお)
 特別研究員 佐藤 輝 (さとう ひかる)
 研究員 高橋 史憲(たかはし ふみのり)
適応制御研究ユニット
 ユニットリーダー 瀬尾 光範(せお みつのり)
バイオリソース研究センター 実験植物開発室
 専任研究員 井内 聖(いうち さとし)
埼玉大学
大学院理工学研究科
 教授 高木  優(たかぎ まさる)
 特任助教 高崎 寛則 (たかさき ひろのり)
 准教授 池田 美穂 (いけだ みほ)
中部大学大学院
応用生物学研究科
 准教授 鈴木 孝征(すずき たかまさ)
産業技術総合研究所
生物プロセス研究部門
 研究グループ長 光田 展隆(みつだ のぶたか)
東京大学
大学院農学生命科学研究科
 教授 篠崎 和子(しのざき かずこ)

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究B「乾燥・高温誘導性転写因子DREB2Aの時空間特異的な機能とその制御機構の解明(研究代表者:佐藤輝)」、同新学術領域(研究領域提案型)「水分ストレスを根から地上部へ伝えるペプチドによる長距離シグナル伝達機構の解明(研究代表者:高橋史憲)」による支援を受けて行われました。

1.背景

近年の地球温暖化により、干ばつや熱波などの異常気象が、今後も地球規模でより頻発すると予測されています。このような異常気象が起こると、農作物の生産に対して質・量ともに大きな損害が生じます。そのため、植物における環境ストレスへの応答メカニズムを分子レベルで詳しく理解する必要性が高まっています。
植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)は乾燥条件下で合成され、気孔の閉鎖やストレス関連遺伝子の発現誘導など、植物が乾燥に適応するために必要な種々の応答を引き起こすことが知られています。例えば、ABAが合成できなくなった植物では、乾燥にさらされると葉から水分が失われ、容易に枯死してしまいます。
乾燥条件下においてABAを合成するためには、ABA合成酵素の鍵遺伝子であるNCED3の転写が活性化される必要があります。しかし、どのようにしてNCED3遺伝子が転写活性化されるか、その分子メカニズムの詳細は明らかにされていませんでした。

2.研究手法と成果

共同研究グループはまず、転写因子抑制技法(CRES-T法)[4]を用いて、シロイヌナズナ[5]の1,670種類に及ぶ転写因子について、NCED3遺伝子にどのような影響を及ぼすかを調べました。その結果、NGAという転写因子のグループがNCED3遺伝子を活性化する有力な候補として単離されました。
次に、シロイヌナズナに存在する4種類のNGA転写因子(NGA1、NGA2、NGA3、NGA4)のうち、いずれがNCED3遺伝子を活性化させるかを、それぞれのNGA遺伝子を欠損させた変異体植物を単離して解析しました。その結果、NGA1遺伝子が機能しない植物ではNCED3遺伝子が十分に活性化せず、ABAの合成量が低下することで、植物の乾燥ストレス耐性が低下することが明らかになりました(図1)。このことから、NGA1(NGATHA1とも呼ぶ)が主としてNCED3遺伝子を活性化させていることが示されました。

図1  NGA1遺伝子が機能しない植物における乾燥ストレス耐性の低下
NGA1遺伝子が機能しない植物では、対照の植物と比較して乾燥ストレス条件下での生存率が低下する。

さらに、乾燥ストレス条件下においてNGA1転写因子の存在量が増加することが明らかになりました。この理由については、乾燥条件に起因する何らかの信号が関与していると推測されますが、この信号がどのように発生し伝えられるのかについての解明は今後の課題です。
これらの結果から、乾燥ストレス条件下でNGA1転写因子がNCED3遺伝子を誘導することで、植物ホルモンABAが合成される分子メカニズムの一端が解明されました(図2)。

図2  NGA1転写因子による乾燥ストレスホルモンABA合成の制御
乾燥ストレス条件下ではNGA1の存在量が増加することによって、NCED3遺伝子が活性化される。その結果、植物ホルモンABAの合成が促進され、植物が乾燥条件へ適応できる。

3.今後の期待

共同研究グループは、NGA1転写因子がNCED3遺伝子を活性化させることにより、乾燥ストレスに必要な植物ホルモンABAの合成を促進させることを示しました。この成果により今後、乾燥条件下おいてNGA1転写因子の存在量を制御するための制御メカニズムを明らかにしていく足掛かりを得ました。また、ABAの合成量を制御するメカニズムを利用することによって、植物の乾燥ストレス耐性を向上させる技術開発につながると期待できます。
さらに今回の研究は、国際連合が2016年に定めた17項目の「持続可能な開発目標 (SDGs) [6]」のうち「13.気候変動に具体的な対策を」に大きく貢献する成果です。

4.論文情報

<タイトル>
Arabidopsis thaliana NGATHA1 transcription factor induces ABA biosynthesis by activating NCED3 gene during dehydration stress

<著者名>
Hikaru Sato, Hironori Takasaki, Fuminori Takahashi, Takamasa Suzuki, Satoshi Iuchi, Nobutaka Mitsuda, Masaru Ohme-Takagi, Miho Ikeda, Mitsunori Seo, Kazuko Yamaguchi-Shinozaki and Kazuo Shinozaki

<雑誌>
Proceedings of the National Academy of Sciences

5.補足説明

[1] アブシジン酸(ABA)
植物ホルモンの一つで乾燥ストレス時に合成される。葉における水分損失の抑制や根の生長制御など、植物が乾燥条件に適応するために必要な種々の応答を引き起こす。ABAはabscisic acidの略称。

[2] 転写因子
標的としている遺伝子を活性化、あるいは不活性化する機能を持つタンパク質の総称。

[3] ABA合成酵素NCED3
ABAを合成するには、複数の酵素が必要であることが知られている。NCED3はその中でも、乾燥条件下におけるABAの合成をコントロールする主要な酵素であり、NCED3が機能しなくなった植物では、乾燥時にABAがほとんど合成されなくなる。NCED3はNINE-CIS-EPOXYCAROTENOID DIOXYGENASE 3の略称。

[4] 転写因子抑制技法(CRES-T法)
転写因子の機能を標的遺伝子に対して不活性化するように変化させる手法。CRES-Tはchimeric repressor silencing technologyの略称。

[5] シロイヌナズナ
植物研究におけるモデル生物。植物体の小ささ、継代の早さ、遺伝子数の少なさなどの理由により多くの研究室で使用されている。学名はArabidopsis thaliana。

[6] 持続可能な開発目標 (SDGs)
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際的な目標。貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指し、17の目標を掲げている(国連開発計画のホームページから一部変更して転載)。                 

参考URL

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