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緑茶カテキンに免疫チェックポイント阻害剤の活性があることを発見(大学院理工学研究科 菅沼雅美教授)

2018/8/29

 国立大学法人 埼玉大学大学院理工学研究科 戦略的研究部門の菅沼雅美教授の研究グループは、緑茶カテキンが免疫チェックポイント分子PD-L1の発現を減少させ、肺がんの増殖が抑制されることを発見しました。近年、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤が、進行がんの治療において著しい効果を上げると報告されています。抗体医薬である免疫チェックポイント阻害薬にはPD-1とPD-L1との結合をそれぞれ直接阻止する薬がありますが、私共の実験はがん細胞に発現するPD-L1の量を緑茶カテキンが減少させて、抗腫瘍免疫の活性を回復することを明らかにしました。緑茶カテキンは副作用がない緑茶成分ですが、高価な免疫チェックポイント阻害剤と同様な活性があることは世界で注目されると思います。今後、この成果を基に、緑茶カテキンによる新しいがん治療の展開が期待できます。

現状

 免疫チェックポイント分子であるPD-L1は、もともと過剰な免疫反応を抑制するために正常な細胞に発現している分子です。しかし、がんが生じる過程でがん細胞がPD-L1を発現するようになり、がん細胞はPD-L1を利用して免疫細胞からの攻撃を逃れています。最近、免疫チェックポイント分子に対する抗体医薬が、いろいろな臓器のがん(メラノーマ、肺がん、腎臓がん、大腸がんなど)に対して、驚くべき効果を上げています。最近、免疫チェックポイント阻害剤は早期のがんにも効果があると期待されていますが、高価で、かつ、特有の副作用があるため、安価で副作用のない免疫チェックポイント阻害剤が求められています。

 一方、緑茶カテキンの予防効果は臨床試験でも証明され、広く認められています。緑茶カテキンは、ヒトのいろいろながん幹細胞の増殖を抑制することや上皮間葉転換を抑制することは分かってきましたが、腫瘍免疫に関する効果は明らかになっていませんでした。菅沼らのグループは、緑茶カテキンが、がん細胞の細胞膜を硬くして、増殖や悪性化の様々なシグナルを抑制することが、がんの予防に通じることを明らかにしてきました。緑茶カテキンの細胞硬化作用が、がん細胞におけるPD-L1の発現を抑制すると考え、本研究にチャレンジしました。

研究体制

菅沼雅美教授(大学院理工学研究科 戦略的研究部門)、 ラワンカン・アンチェリー(大学院理工学研究科 博士課程3年)

研究成果

 緑茶に含まれるカテキンであるEGCGが、インターフェロン-γやEGF(上皮成長因子)によって肺がん細胞に誘導されるPD-L1遺伝子発現を抑制して、がん細胞表面のPD-L1タンパク質を減少させることを見出しました。EGCGだけでなく、緑茶抽出物(煎茶を凍結乾燥したもの)にも同様の作用があることを、培養肺がん細胞を用いて見出しました。さらに、腫瘍特異的T細胞の活性を測定する実験系で、緑茶カテキンによるがん細胞におけるPD-L1の減少が、PD-L1によって抑制されていたT細胞の活性を回復させることを確認しました。

 つぎに、マウスにNNK(たばこに含まれる発がん物質)を投与して、肺がんを生じさせる実験で、0.3%の緑茶抽出物を含む飲料水を与えて効果を検討しました。緑茶抽出物を飲用させた群では、水を飲用させた群に比べて、肺がんの発生を37%抑制し、PD-L1の発現を70%減少させていました。

 すなわち、緑茶カテキンに免疫チェックポイント阻害剤として作用することが示されました。 

今後の展開

 緑茶カテキンはがん細胞の膜を硬化させますので、PD-1とPD-L1の結合を直接抑制する可能性、また、免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強する可能性もあると期待されます。これまで、緑茶カテキンを抗がん剤と併用すると、抗がん効果を増強し、抗がん剤抵抗性を克服できることを報告してきましたが、世界の研究者もその効果を証明しています。今回、緑茶カテキンに免疫チェックポイントの阻害作用が見出されましたので、緑茶カテキンと抗がん剤との併用による新しい革新的がん治療法へと発展することを期待しています。

発表論文

Rawangkan A, Wongsirisin P, Namiki K, Iida K, Kobayashi Y, Shimizu Y, Fujiki H, Suganuma M.
Green tea catechin is an alternative immune checkpoint inhibitor that inhibits PD-L1 expression and lung tumor growth.
Molecules (2018) 23(8), 2071. doi.org/10.3390/molecules23082071

研究に対する問い合わせ

埼玉大学 大学院 理工学研究科 教授
菅沼 雅美 (すがぬま まさみ)
Tel: 048-722-1111, 7513
Fax: 048-722-1129
E-mail: masami0306@mail.saitama-u.ac.jp