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異なる二つの金属を組み合わせると、まるで異なった性質が生まれた-金属の組み合わせの重要性を明かす-(理工学研究科 斎藤 雅一教授)

2018/7/25

1 ポイント

独自の配位子を用いて異なる二つの金属を有する金属錯体の合成に成功。
異なる二つの金属を導入し、それぞれの金属の性質を反映しない、全く異なった性質を創り出すことに成功。
異なる二つの金属を組み合わせると、予想もしない新物性が発現する可能性を提示。

2 概要

フェロセンに代表されるサンドイッチ化合物は有機金属化合物の代表格ともいえる化合物群の一つで、今日隆盛を誇る触媒化学や機能性物質の一翼を担っている。これまでに、このサンドイッチ構造を支える、炭素のみからなる配位子の骨格を同族で高周期のスズに置き換えた配位子を世界で初めて開発し、これを利用して、従来の配位子では合成が不可能だった構造をもつ化合物を創製してきた。今回、異なる二つの金属を組み合わせて合成した化合物の性質を調べたところ、それぞれの金属からなる化合物の性質は現れず、全く異なる物性が発現した。いわば、黄色と白色のチューリップをかけ合わせて生まれたチューリップが全く異なる赤色をしている、といった現象を発見した。本成果は、2018年5月7日、英国王立化学会刊行の無機化学に関する専門誌Dalton Transaction誌に受理され、同月10日にオンライン速報版に掲載された。また、7月21日付けの掲載号のバックカバーに選定された。今回の成果は,金属原子の様々な組み合わせを研究すると、多種多様な、望みの、若しくは思いもよらない性質をもつ化合物を創製できる可能性があることを示している。

3 研究の背景

1951年に合成されたフェロセンは、遷移金属である鉄が5個の炭素原子からなる有機配位子(シクロペンタジエニル配位子)によってサンドウィッチされているという、それまでの化学の常識を超えた構造様式をとっている(図1)。この発見が契機になり、有機金属化合物の一領域が誕生し、フェロセンの化学に貢献した化学者にノーベル化学賞が授与された。フェロセンの誕生後、様々な遷移金属がサンドウィッチされた化合物、さらにはサンドウィッチ構造を三層(トリプルデッカー)に拡張した化合物が合成されている。我々は炭素π電子系にスズを組み込んだ独自の配位子を開発し、これを用いてトリプルデッカー型錯体の合成に成功している(図1)。しかし、このようなトリプルデッカー構造に異なる二つの遷移金属原子を挟み込む手法は限られていた。

図1 サンドウィッチ化合物

4 研究内容

我々が独自に開発したスズを骨格に含むジアニオン性配位子を用いて、今回、二つの異なる遷移金属原子(ルテニウムとロジウム)を挟み込んだ化合物の合成に成功した(図2)。

図2 今回合成に成功した異なる二つの遷移金属原子を挟み込んだトリプルデッカー型化合物1

化合物1の性質を調べるべく、対照化合物として同じ二つの遷移金属原子を挟み込んだトリプルデッカー型化合物2および3を合成し、電気化学的測定(サイクリックボルタンメトリー)を行った(図3)。当初、化合物1は化合物2および3のいずれの特徴も兼ね備えていると考えていた。しかし、サイクリックボルタンメトリー測定の結果、化合物1はいずれの参照化合物ももたない独自の性質を有していることがわかった。

図3 参照化合物であるトリプルデッカー型化合物2および3

この結果は、異なる二つの金属原子を組み合わせることにより、それぞれの金属原子を含む化合物にはない性質を創りだすことを示している。つまり用いる金属原子の様々な組み合わせを研究すると、多種多様な、望みの、若しくは思いもよらない性質をもつ化合物を創製できる可能性があることを示している。新しい機能性物質の開発の手法として意義深い成果といえる。 

得られた化合物1をイオン液体中でマイクロ波を用いて加熱し、スズ、ルテニウムおよびロジウムの三種類の金属から成る新しいナノ粒子の合成にも成功した。この成果は、熱分解しやすい有機配位子を用いて合成された金属化合物は金属ナノ粒子の有効な原料になることを示している。今後、生成したナノ粒子を触媒として用いた反応の発見が期待される。これはドイツ・デュッセルドルフ大学との国際共同研究の成果である。

5 原論文情報 / 参考文献

"Heterobimetallic Triple-decker Complexes Derived from a Dianionic Aromatic Stannole Ligand", M. Saito, N. Matsunaga, J. Hamada, S. Furukawa, M. Minoura, S. Wegner, J. Barthel and C. Janiak, Dalton Trans., 47, 8892-8896 (2018). DOI: 10.1039/C8DT01455H (Selected as a Back Cover)

6 用語解説

π電子系:主に炭素どうしの二重結合によって組み上げられた骨格のこと。
ジアニオン:二つのマイナス電荷をもつ化学種のこと。
サイクリックボルタンメトリー:分子の酸化および還元のされやすさを測定する方法。
イオン液体:プラスとマイナスの化学種から成る塩(えん)のうち、幅広い温度範囲で液体として存在するもの。
マイクロ波:一般に波長が1 mmから30 cmの範囲になる電磁波のこと。
ナノ粒子:一般に1 nmから100 nm (nm = 1×10-9 m)の大きさをもつ粒子のこと。

7 本研究に関する問い合わせ

埼玉大学理工学研究科
担当教員 斎藤 雅一
TEL 048-858-9029 / FAX 048-858-9029
e-mail masaichi@chem.saitama-u.ac.jp

参考リンク

斎藤 雅一(サイトウ マサイチ)|研究者総覧このリンクは別ウィンドウで開きます