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システインから無機硫黄を取り出す酵素反応の瞬間を捉える!-亜鉛の化学結合を鍵とするユニークな硫黄代謝機構を解明-(理工学研究科 藤城 貴史助教、高橋 康弘教授)

2017/12/15

ポイント

・ 含硫黄アミノ酸であるシステインから、酵素が無機硫黄を取り出す過程を原子レベルで解明
・ 取り出された硫黄は、鉄硫黄クラスターと呼ばれる無機必須補因子の生合成の材料として使用
・ 亜鉛イオンが、硫黄を運ぶ2つの酵素の仲介役、かつ反応開始のトリガー
・ 必須補因子である鉄硫黄クラスター生合成の多様性の理解に貢献

概要

鉄硫黄(Fe-S)クラスター1)は、進化的に最も古い、ほぼすべての生命に必須な無機補因子2)であり、鉄と無機硫黄を材料として、私たちの体の中で生合成されています[1]。現在までに、3種類の鉄硫黄クラスターの生合成系(SUFマシナリー、ISCマシナリー、NIFマシナリー3))が明らかとなっており[2]、世界中で精力的に研究されています。近年、生合成系の1つであるSUFマシナリーの一部が、別の生合成系であるISCマシナリーの一部と置き換わった「キメラ型4)」の生合成系"SUF-likeマシナリー"が見つかり、大きな注目を集めています[3]。

このSUF-likeマシナリーには、SufUと呼ばれる、他の生合成系にはないユニークなタンパク質の存在が知られています。SufUは亜鉛(Zn)イオンを結合しており、ISCマシナリーの成分IscUと、進化的な関連があるとされてきました。したがって、SufUの研究により、鉄硫黄クラスター生合成系の多様性の理解のみならず、生物が進化の過程で無機物をどのように利用してきたかという観点から、生命の多様性の本質に迫ることができると期待されます。しかしながら、SufUが、そのパートナーであるSufSと一緒に、どのように無機硫黄の取り出しを行うのかについては、未解明のままでした。

図1:SufS-SufUが硫黄代謝を行う鉄硫黄クラスター生合成の流れと、SufS-SufU複合体の立体構造、ならびに、IscS-IscUの立体構造との比較

今回我々は、"SUF-likeマシナリー"において、鉄硫黄クラスターの生合成の材料となる無機硫黄をシステインから取り出す「SufS-SufU酵素複合体」について研究し、その分子メカニズムを世界で先駆けて解明しました(図1)。X線結晶構造解析5)という手法により、SufSとSufUが亜鉛を介して複合化することで無機硫黄の取り出し反応が可能となることを示し、実際にシステインから硫黄を取り出す過程をスナップショットで捉えることに成功しました。本研究は、2017年12月11日に、化学の分野で最も著名な学術誌であるアメリカ化学会の雑誌、Journal of the American Chemical Society誌(インパクトファクター:13.858)に受理され、オンライン速報版このリンクは別ウィンドウで開きますに掲載されました。本研究結果により、これまで謎に包まれていた亜鉛を利用するSUF-likeマシナリーと他のマシナリーとの無機硫黄獲得の分子メカニズムの比較が可能となり、分子の観点から生命の進化にせまる道筋を切り開くことができました。

研究の背景

鉄硫黄クラスターは、進化的に最も古いタイプの、ほぼすべての生命に必須な無機補因子であり、鉄と硫黄を材料として細胞内で生合成されています。現在までに、3種の鉄硫黄クラスター生合成系が知られており、それぞれ、ISCマシナリー、SUFマシナリー、NIFマシナリーと呼ばれています。その中の1つであるSUFマシナリーは、微生物から高等生物まで広く見られる重要な生合成系です。そのため、SUFマシナリーに関する研究が、生物学者や化学者により世界中で進められてきました。

鉄硫黄クラスター生合成の研究は、遺伝学などで頻繁に用いられるモデル生物、大腸菌6)において最も進められてきました。大腸菌はISCマシナリーとSUFマシナリーの2 つの生合成系を持っています。ISCマシナリーは7種類の構成成分(iscSUA-hscBA-fdx-iscX)、SUFマシナリーは6種類の構成成分(sufABCDSE)からなります。近年、大腸菌と同様によく知られたモデル生物である「枯草菌」7)において、大腸菌のSUFマシナリーの構成成分の1つであるSufEが、大腸菌のISCマシナリーの構成成分の1つであるIscUに非常に良く似た"SufU"に置き換わっているユニークな"SUF-likeマシナリー"(sufCDSUE)が見つかり、注目を集めています(図2a)。

SufUは亜鉛を有するタンパク質であり、IscUと良く似た構造をとるものの、両者の機能は異なっています。IscUは、IscSから無機硫黄を受け取り、その硫黄と鉄を用いて、実際に鉄硫黄クラスターを組み立てるタンパク質として知られています。一方、SufUは、IscSと相同の(ほぼ同じ構造・機能を持つ)SufSから無機硫黄を受け取ったのち、それ自身は鉄硫黄クラスターを作らず、鉄硫黄クラスターを作る別のSufBCD複合体に、無機硫黄を運搬すると考えられています。枯草菌のSUF-likeマシナリーにおけるSufUの役割は、実は大腸菌のSUFマシナリーのSufEと共通ですが、 SufUは特徴的な亜鉛(Zn)を持つのに対し、SufEは亜鉛を持っていません(図2b)。

図2 :(a)枯草菌suf-like遺伝子群と大腸菌suf、 isc遺伝子群 (b)IscU、 SufU、 SufEタンパク質の分子構造の比較

これらSufU、IscU、SufEが、似た構造を持つにもかかわらず、それらの構造/機能が多様である点は、生物が進化の過程で、無機必須補因子である鉄硫黄クラスターの生合成系もまた進化させ、それぞれの環境に適応していった経緯が推察されます。おそらく大腸菌と枯草菌では、異なる進化プロセスを経て、それぞれの生育環境を反映した鉄硫黄クラスター生合成系を獲得したのでしょう。しかしながら、実際にSufUが、IscUと非常に似ている構造を取るにもかかわらず、異なる機能を示す理由については、謎のままでした。そこで、我々は、SufUと、そのパートナーであるSufSに焦点を当て、これまで研究を進めてきました。

研究内容

今回我々は、X線結晶構造解析と呼ばれる手法により、枯草菌のSufS-SufU複合体の立体構造を調べました。その結果、SufS-SufU複合体により、硫黄を含むアミノ酸であるシステインから無機硫黄が取り出される"硫黄転移反応"のメカニズムを、分子・原子レベルで明らかとしました。

SufS-SufU複合体は、中心をSufSの二量体(SufS 2分子)とし、そのSufSの酵素活性部位にSufUがそれぞれ1分子ずつ結合した(SufS)2-(SufU)2の組成であることがわかりました(図1)。興味深いことに、SufS-SufUの複合体の境界面を見ると、元々亜鉛イオンに結合していたSufUの41番目のシステイン残基(Cys41)が亜鉛から外れて、SufS側に向いた状態を取っており、その代わりにSufSの342番目のヒスチジン残基(His342)が亜鉛へと結合していることがわかりました(図3a)。このように、亜鉛に結合するアミノ酸を取り替えること(swapping)により、SufS-SufU複合体は安定に結合し、かつ、SufUのCys41が、「硫黄の受け手(sulfur acceptor)」となり、SufSによってシステインから引き抜かれた無機硫黄をスムーズに受け取ることができます。またシステインを結晶状態のSufS-SufU複合体に加え、結晶内でSufS-SufUの反応を進行させた状態でも、X線結晶構造解析を行いました。その結果、無機硫黄を渡す過程における2種類の反応中間体(図3bの(2)、(3))をスナップショットで捉えることに成功し、確かに無機硫黄がSufSの活性部位から、SufSの361番目のシステイン残基を通り(Cys361-SSH)、SufUのCys41へと渡される(Cys41-SSH)ことを明らかとしました(図3b)。

図3 : (a)SufUがSufSとの結合により、その亜鉛周りの構造が変化する様子。Cys41が外れて、代わりにSufSのHis342が亜鉛に結合している。Cys41はSufS側にむき出しになり、SufSからの硫黄を受け取ることができる。(b) SufS-SufU間で硫黄が受け渡される様子をスナップショット((1)、 (2)、 (3)の順に反応が進む)で捉えた様子

今後の展開

今回の基礎学術的成果は、SUF-likeマシナリーによる鉄硫黄クラスター生合成でのSufUの役割を分子・原子レベルで明確にしたのみならず、太古の時代から使われていた重要な無機補因子である鉄硫黄クラスターの生合成系が、生物の進化の過程で多様化した道筋を考えるきっかけとなります。 

また、SufUを持つSUF-likeマシナリーは、枯草菌だけでなく、よく知られた病原菌である結核菌8)なども利用しており、SUF-likeマシナリーを標的とした薬剤分子の開発などの応用研究の展開も期待できます。 

さらに、生物学だけでなく、化学の分野においても、本研究で明らかとしたユニークな硫黄代謝は、「化学的に安定な亜鉛-システイン結合を取り替える」、珍しいプロセスを経て進行しており、このSufS-SufU系に倣った亜鉛によるスイッチングシステムの開発なども、今後期待されます。

原論文情報

"Zinc-Ligand Swapping Mediated Complex Formation and Sulfur Transfer between SufS and SufU for Iron-Sulfur Cluster Biogenesis in Bacillus subtilis"

Takashi Fujishiro, Takuya Terahata, Kouhei Kunichika, Nao Yokoyama, Chihiro Maruyama, Kei Asai, Yasuhiro Takahashi, Journal of the American Chemical Society, in press. DOI: 10.1021/jacs.7b11307

参考文献

[1] (a) Beinert, H.; Holm, R. H.; Munck, E. Science 1997, 277, 653. (b) Rees, D. C.; Howard, J. B. Science 2003, 300, 929. (c) Lill, R. Nature 2009, 460, 831.(d) Mettert, E. L.; Kiley, P. J. Biochem. Biophys. Acta, Mol. Cell Res. 2015, 1853, 1284. (e) Johnson, D. C.; Dean, D. R.; Smith, A. D.; Johnson, M. K. Annu. Rev. Biochem. 2005, 74, 247. (f) Py, B.; Barras, F. Nat. Rev. Microbiol. 2010, 8, 436.

[2] (a) Jacobson, M. R.; Cash, V. L.; Weiss, M. C.; Laird, N. F.; Newton, W. E.; Dean, D. R. Mol. Gen. Genet. 1989, 219, 49. (b) Zheng, L. M.; Cash, V. L.; Flint, D. H.; Dean, D. R. J. Biol. Chem. 1998, 273, 13264. (c) Takahashi, Y.; Tokumoto, U. J. Biol. Chem. 2002, 277, 28380.

[3] (a) Huet, G.; Daffe, M.; Saves, I. J. Bacteriol. 2005, 187, 6137. (b) Riboldi, G. P.; Verli, H.; Frazzon, J. BMC Biochem. 2009, 10, 3. (c) Riboldi, G. P.; Larson, T. J.; Frazzon, J. FEMS Microbiol. Lett. 2011, 320, 15. (d) Albrecht, A. G.; Netz, D. J. A.; Miethke, M.; Pierik, A. J.; Burghaus, O.; Peuckert, F.; Lill, R.; Marahiel, M. A. J. Bacteriol. 2010, 192, 1643. (e) Albrecht, A. G.; Peuckert, F.; Landmann, H.; Miethke, M.; Seubert, A.; Marahiel, M. A. FEBS Lett. 2011, 585, 465. (f) Riboldi, G. P.; de Oliveira, J. S.; Frazzon, J. Biochim. Biophys. Acta, Proteins Proteomics 2011, 1814, 1910. (38) Selbach, B. P.; Chung, A. H.; Scott, A. D.; George, S. J.; Cramer, S. P.; Dos Santos, P. C. Biochemistry 2014, 53, 152.

用語解説

1) 鉄硫黄クラスター: 鉄と無機硫黄から構成される補因子であり、呼吸など重要な生命現象を司る。
2) 補因子: あるタンパク質が機能するために必要となるタンパク質以外の化学物質のこと。
3) マシナリー: 英語のmachinery(装置)を日本語読みにしたもの。
4) キメラ型: 由来が異なる複数の部分から構成されている型.。ギリシャ神話に登場する頭と胴と尾が異なる動物から成る怪獣「キマイラ」に由来。
5) X線結晶構造解析: 分子・原子レベルで分子の立体構造を調べる方法の1つ。調べたい分子を結晶状態にし、X線を当てて得られる回折像から、結晶内の元の分子の形を明らかにすることができる。
6) 大腸菌: グラム陰性細菌の1つであり、分子生物学で最もよく用いられるモデル生物。
7) 枯草菌: グラム陽性細菌の1つであり、大腸菌と同じく分子生物学でよく用いられるモデル生物。
8) 結核菌: 結核を引き起こす病原菌。枯草菌と同じく、グラム陽性細菌であり、SUF-likeマシナリーを持つことが知られている。

プレスリリース

システインから無機硫黄を取り出す酵素反応の瞬間を捉える!-亜鉛の化学結合を鍵とするユニークな硫黄代謝機構を解明-PDFファイル


参考リンク

藤城 貴史(フジシロ タカシ)|研究者総覧このリンクは別ウィンドウで開きます

髙橋 康弘(タカハシ ヤスヒロ)|研究者総覧このリンクは別ウィンドウで開きます

Journal of the American Chemical Society誌オンライン速報版このリンクは別ウィンドウで開きます